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怪盗結社〝ファントム・ガールズ〟は、これからこれでやっていきます!

 その時期、探偵機関から3人の人間が消えた。


 俺、レオン、そしてもう1人――――ジュリアという、女の探偵だった。


 特筆すべきことはあまり無い、平凡な出来事だ。日本中を見渡せばどこにでも平気で転がっているような、ありふれた悲劇。


 俺のライバルとして活動していたジュリア。レオンが一番慕っていたと言えるジュリア。その女探偵ジュリアが。

 かつて捕らえた犯人に、逆恨みで殺された。端的に、それだけの話だった。


「それだけの話だった。そして俺達にとっては、これ以上無い出来事だった」


 燃え盛るアジトを眺めながら、俺は隣にいるドレミに語りかける。

 巨大な炎は、その熱は、船の進行とともにどんどん遠ざかっていく。


「犯人は〝暗渠〟の息がかかった人間だった。そのとき同じ施設にいたスタッフや、警備員なんかもな。その後あいつらは俺とレオンで逮捕したが……関与した全員をとっちめられたのかって言われると、怪しいな」

「……。……じゃあ、あの金髪は何で、恨みさえある〝暗渠〟に?」

「さあな。俺にはまだ……あいつの心は理解できそうにないらしい」


 だが、あいつは目的を語っていた。

 社会を作り変える、と。


「重犯罪やらかした犯人がのうのうと釈放される執行猶予(システム)とか、権威さえ抱き込んでしまえば人事も警備配置もコントロールし放題な構造(ルール)とか、そういうところに恨みを向けてるじゃないか?」

「……サグルは?」

「ん?」

「サグルは、どうしたいの?」

「もちろん――――真相を解明する」


 あの事件……というか、ジュリアに関して、未だに解けない疑問があるのだ。

 いいや、疑問と言うべきかは分からない。

 解くべき謎でも何でもないのかもしれない。ジュリアはあのとき、〝真相〟を語っていたのだから。



 ――――『サグル……最後に言わなきゃいけないことがあるの。実は、私ね、()()()()()()()()()()()



 その続きは聞けなかった。

 息を引き取る直前、それだけ告げてジュリアは……、


「……っ、創始者って」

「それが本当なのか嘘なのか。何で告げたのか。……何で〝暗渠〟なんて組織を生んだのか。ジュリアを殺したのは〝暗渠〟関係者だぞ、この件に絡んでないわけがない。あの事件が単なる逆恨みで片付く話なわけがない」


〝暗渠〟という組織に迫るために、裏社会の一員になることにした。少しでも情報を得るために、コンサルという立場を取った。

 この謎を解くために。

 それが今の、俺の人生の全てだった。


「俺にとっては忌避すべき〝暗渠〟でも、レオンにとっては違うのかな。全てはシステムのせい。構造のせい。〝暗渠〟そのものは、ジュリアが作った、1つの遺品。そう思っているのかもしれないな」

「ふーん……サグルはそう思うんだ。私は全然違う捉え方しちゃうけど」

「え?」

「いや……いいわ。人の心なんて結局、どこまでいっても分かんないものよ」


 ひらひらと手を振り、話を切るドレミ。


「人それぞれ解釈があるし、人それぞれ思惑がある。本当も嘘も織り交ぜる。だからこそ、それを見抜ける私がレアカードとして狙われたわけだし。……てかさ、よく考えたらこれ、逃げ切ったとは言えないわよね? 後から〝暗渠〟の人海戦術で大捜索始まったり……」


 嫌気が差すの最上位みたいな表情で遠い目をするドレミに、俺は言う。


「んー、多分大丈夫だよ。ちょっと布石打っといたし……レオンなら、まともな損得勘定できるだろ。公算は高い」

「?」

「アジト爆破までしたんだ、戦果として十分。レオンが深追いしてくる理由がもう無いってこった」

「ふーん……いやまあ別にいいんだけど、爆破したのサグルだけどね。人のせいみたいに言わないでくれる?」

「言っとくけど、アジトの放棄自体は計画通りだったからな? ドレミを連れて〝暗渠〟から逃げるために、むしろあいつらが立案したもので……」

「あっ、そうじゃん! そういえば!」


 ズイっと、体ごと俺に寄せて高圧的にドレミは迫る。


「……なんだ」

「謎解き! まだ全部聞いてないんだけど! 〝怪盗Missing〟事件!」


 そうだったか……? あの大騒ぎの中で完全に忘れていた。


「もう犯人達いるんだから、直接聞きゃいいだろ」

「ダメよ、探偵が何言ってんの! 推理ショー投げ出さないで」


 へいへい。ロマンとか形式美とかにこだわる怪盗少女だ。

 えっと……どこまで喋ったっけ?


「〝怪盗Missing〟の正体はあの子達4人全員だった。秘宝〝ブラックカーテン〟の正体はトラックそのものだった。映像改竄なんてされてなかったしする必要も無かった。犯行声明は事後報告じゃなくて〝予告状〟だった!」

「あーそうだったそうだった」

「何であの子達が軍事兵器なんか欲しがるの? 予告状ってどういうこと? 4人で盗んできたものをまた4人で盗むって……一体何がしたいわけ?」

「落ち着け……。とりあえず、犯行声明をよく読め」


 俺は懐から犯行声明文を取り出し、ドレミに渡す。



【月の境界が幻影となる良き日に。0時ちょうど、この部屋から失わせしめるは、かの秘宝〝ブラックカーテン〟なり。――――怪盗Missing、参上!】



「あったはずのものが無くなっていた。そう思ったから、当然、これは事後報告だとお前は思った。というか俺も思ってた。けど、前提がひっくり返ると変わるよな。秘宝〝ブラックカーテン〟はあのとき、まだ財宝部屋に堂々と置いてあったんだから。失われちゃいない」

「事後報告じゃないから、予告状なの? じゃあいつなのよ」

「そりゃお前、月の境界が幻影となる日だよ」


 まだぽかんと疑問符を浮かべているドレミに、追加で言葉を投げてやる。


「今日は何日だ?」

「2月29日――――あっ」

「言葉遊びというか、比喩というか。言わずもがな4年に1回、2月と3月の境界線がズレる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして。

 人の動機なんてものは、大抵の場合シンプルなものだという。


 財宝部屋の屋根に上って何やら作業していたミラージュが、「準備完了ー!」と声を張っているのが見えた。屋根を一部引っ剥がして、穴を空けていたようだ。他の3人は下にいて、トラックの位置を調整している。

 そんなみんなの様子に気付いたドレミが疑問の声を発するのを邪魔するように、先んじて俺が言葉を続ける。


「0時頃、〝ブラックカーテン〟に乗ってみんなで財宝部屋を脱出したよな。これで予告通りだ。また舞い戻って来ちまったけどな。……レオンの介入はマジでイレギュラーだったよ。あれが無けりゃ、俺が強引にお前を担いでトラックに乗せるつもりだった。ああ、今さら言うことでもないけど、俺も途中から協力者だから。今朝犯人(あいつら)に話を聞きに行って、色々話聞かされて、一緒に計画練ってた」

「……何で」

「動機を聞いちまったからなあ」

「動機?」

「お前今日誕生日だろ」


 未だに意味不明の4文字を顔に浮かべてるドレミに、俺は指で上を指し示す。

 上を向け。


 次の瞬間――――夜空に満開の花が咲いた。



「「たーーーーーーまやぁぁあああああああーーーーーーっっっ!!!」」



 セフィラとアイの声が響く頭上で、夜空に咲き誇る一輪の花火。

 花、の中には文章も書かれていて。



『Happy Birthday』



 トラックの上部に展開された砲台が財宝部屋の屋根を突き抜け、夜空へと花火を飛ばしたようだった。さっきの戦闘では使わなかった砲台……いや、使えなかった砲台。このときのために、花火用に調整されていたから。


 あいつらはこのために。

 この一発のために。

 この砲台が欲しくて、秘宝〝ブラックカーテン〟を盗んだのだ。


 サプライズ演出のために、このトラックはただのトラックだと偽装して。ガソリンが満タンだったのも、後で使うことが分かっていたからで。アジトの空き部屋を1つ占拠して、ドレミにバレないようにみんなで会議や準備を整えて。怪盗事件を偽装して、予告状を置いて、花火玉を作って……、


 アホだ。


 最初に俺が抱いた感想はそれだった。たかがサプライズパーティのために、何をどこまでぶっ飛べば気が済むんだ、こいつらは。

 ドレミもきっと、同じ感想を抱いたのだと思う。ドレミはしばらく、ひたすら爆笑していた。


 笑って笑って、少し涙が出ていた。


 それはきっと、こいつらが見たかったドレミの姿だ。

 ドレミに笑ってほしくて。


 アジトなんか別にいらない。資産も財宝も放り捨てていい。たった1つ、どうしても譲れないものを盗み出すための計画だった。

 お前の居場所はここだぞと、釘を刺すように。


「ありがとう、みんな」


 そう言った後、ドレミは最後にちらりとアジトの方を振り返る。

 未だに強く燃え盛る炎。どんどん小さくなっていくその光景に、ドレミは何を思うのだろう。


「そういえば、サグル」

「ん」

「あの宿題。決めたわ」

「宿題? ……ああ。組織の理念の話か」


 宿題だぞって言ってたっけ、そういえば。

 そうしてドレミは、高らかに宣言する。


 存在意義(ミッション)____『常にロマンを胸に』

 将来像(ビジョン)____『常に笑顔を絶やさずに』

 行動指針(バリュー)____『常に矜持を魂に』


「怪盗結社〝ファントム・ガールズ〟は、これからこれでやっていきます!」

「……なんというかちょっと、なんか、ズレてね?」

「何よっ!」

「いやまあ……一旦いいよ。お前達は、それでいい」


 そう言って俺は笑った。

 自分の口から漏れた笑い声に、自分でびっくりした。あまりにも、自分で気付かないほど自然に出てきた笑みだった。


 ……そうか。

 今さらながら、自分のことながら、俺は気付く。


「さて……みなさん、次の目的地どうします? 何も決めてないのです」

「あったかいとこがいいけどー」

「それ夏になったら暑くなるけどええの?」

「……ドレミもこっち来て。行き先決めるから」

「ったくもう」

「サグルちゃんも」

「はいはい」


 ____俺もまた、俺が思っていたより、この組織のことが好きらしい。


 裏社会に入るための足がかり。〝暗渠〟の情報を得るための通過点。コンサルとして職務を全うするだけの義理。

 ただそう思っていただけの頃よりも……もう少しだけ純粋に、こいつらのことが知りたいと、そう思った。


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