どの道、結論は変わらない
燃えて崩れゆくアジトを背に、スタスタと退却していくレオンの姿がそこにあった。
(すぐに追えば、まだサグルさん達を見失わずに済むか? ……いや、無理だな)
森の中で放心状態になっている味方陣営の横を通り過ぎながら、一瞬湧いた選択肢をレオンはあっさり切り捨てる。
追跡するにも人員がいる。手持ちの人員は全て、謎の毒ガスのせいで戦力にならなくなっている。
じゃあ後日改めて、徹底的に捜索することにしよう。――――という選択肢も、レオンの中で放棄される。
怪盗結社〝ファントム・ガールズ〟からは手を引くべきだ。少なくとも、現状では。
(……サグルさんがあのとき咄嗟に放った、あの言葉)
――――『出口見えたぞ! ここ抜けたらもう逃げ切り完了、出し惜しみ無しだ! 武装展開!』
まるで、外には敵がいないと思っているような言い草だ。
実際にはバリケード含め数多の人員を配置済みだった。サグルの勘違いだ。が、それはレオンの意図したことでもある。
屋上で、レオンはこう言った。
――――『今さら作戦会議してどうなりますか? 無い道は開けませんよ。連れて来た全戦力、あと1分もしない内にこの屋上に集結します』
全戦力を集結させている、と。
嘘をついた。
そしてサグルはそれに騙された。つまり、ドレミはその嘘を見破れなかったということだ。いくらなんでも死活問題な状況で、この重要すぎる発言を、聞き漏らしたり伝え忘れたりするわけがない。
つまり、怪盗ドレミの嘘発見能力は、それほど当てにならない。
レオンはそう結論付けた。
ならば、これ以上追跡する価値は無い。制裁と言うには十分なダメージは与えたし、上も納得するだろう。無価値なお宝を無理に追いかけて、反撃ダメージを食らうのもバカバカしい。向こうには〝ブラックカーテン〟という無視できない兵器があるのだ。
よって、この件は終了。深追いしても、得ることが無い。
(……と、僕がそう考えるのも含めて、想定通りだったりしますか、サグルさん?)
あのときの咄嗟のサグルの発言は、本当に咄嗟だったのだろうか?
全てが終わった後にこうして、レオンの追跡を防ぐための布石だったのではないだろうか?
だとしても、
(だとしても……どの道、結論は変わらない)
〝暗渠〟にとってドレミの価値は、『嘘を見抜く能力』。言い換えれば、『情報の信憑性』を担保する装置だ。
サグルの思い通りかどうかは関係無い。現在レオンが、情報に惑わされていることそれ自体が問題だ。
ドレミを支配下に置いたときも同じような混乱を招く恐れがあるということだ。ドレミの提示する情報に依存し、左右され、操られるリスクがある。
あまりにもピーキーすぎる人材。リスクとコストを考えたら、割に合わない。
ドレミからは手を引く。結論はもう、決定している。
(……これを意図してやっていたとしたら。ほんと尋常じゃないな、サグルさん)
サグルがやったことといえば、ほんの一言。トラックの窓から顔を出して一言叫んだだけ。
たったそれだけの一手で、〝暗渠〟を撤退に追い込んだ。絶対不利の戦力差を一気に補った。
全身の細胞がゾクゾクと震え上がる感覚。レオンは次の再会を待ち遠しく思いながら、夜の闇へと溶けるように去って行った。




