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怪盗結社ファントム・ガールズの事件簿  作者: 一星
第六章 盗聴怪人
25/28

これが本物の、火の玉ストレート

「って…………アホかぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!」


「うわっ、うるさいな……何だよ!」


 抜けた魂がようやく戻ってきた様子のドレミ。耳につんざく金切り声が助手席から響いてきた。


「何だよじゃないでしょーーーがっ! やっと現実が追いついてきて……やっと言葉が出てきたわよ! え、あの少年の虚を突くためだけにアジト爆破したの!? マジ何してんの? 脳みそアンパン野郎じゃん!」

「しょうがないだろ、他に道が無かったんだから。というか、爆弾置いたのお前だからな」

「そーだけどっ! いやむしろ、あんたが自分で設置してた方がまだマシよ! どこに置いてあるかも分からない爆弾を起爆するな! 設置場所によっては、秒でアジト倒壊して死んでたかもしんないのに……!」

「でも実際、倒壊までは相当タイムラグがありそうだ。そうなるように計算して、爆弾を設置してるだろ? 万が一起爆されても、メンバーみんな脱出できるように」

「……っ」

「お前なら、そうするだろうと思った。賭けだったけど、勝算は高いと踏んでたよ」


 それ以上の反論は無かった。何か言いたげにムズムズとした表情を見せた末、ドレミは大きく溜息を漏らす。


「…………絶体絶命に変わりは無いわよ。運が悪かったら普通に崩落で道塞がるし、それに、さっきあの金髪がついた〝嘘〟も」

「嘘?」


 レオンが発したという嘘。その内容をドレミから聞く。


 軋み崩れゆく建物の悲鳴を浴びながら、重苦しくエンジンを響かせ進むトラックの中、俺は口元をニヤリと歪めた。


「なるほど……ちょうどいい、それでいくか」

「? どういう意味?」

「いやまあ、生存戦略の話だよ。これを乗り越えた先の未来。だから、今はいい。まずは全力で、この窮地を脱しないとな」


 天井も徐々に崩落が始まってきた。瓦礫にタイヤが乗り上げてガタンと大きく車体が揺れる。

 のみならず、当然のように、


『サグルちゃん次の角、敵おるで。カメラに映った』

「ああ見えてるよ! もう下りてきたか……! こっからもっと荒くなるぞ、ちゃんと捕まってろよお前ら!」


 銃火器やチョッキ、ヘルメットなどといった戦闘装備の人影が複数待ち構えていた。


 銃口が向けられる。が、お構い無しだ。盛大にハンドルを切り、速度を緩めず車体を横向きに。慌てて転がり避ける敵部隊を尻目に、トラックはドラフトしながら角を曲がっていく。


 が、曲がった先にも、何人も。正面数十メートル先、すでに銃口は向けられている。


「やば……サグル! さすがにこれは、」

「問題無い、このトラックは隅々まで最先端の装甲だ。アサルトライフル程度なら余裕で耐えられる規格らしい」


 直後、


 ズガガガガガガガガガッッッ!!!!!!!!


 と、炸裂した銃火器が嵐のように、フロントガラスに当たって跳ね返っていく音。割れるどころかヒビ一つ入ってない目の前のガラスを、頭を抱え縮こまりながらドレミは目を丸くして見ている。


「そっか……護送車。さすがに、3億のお宝を運ぶとなると並大抵の防御力じゃないのね」

「いや違う、そうじゃない。……ああそうか。最後の謎解きはお前にまだ披露してなかったな」

「は?」

「〝怪盗Missing〟事件だよ」


 ドレミの内通の件でうやむやになっていて、屋上では結局その真相を語っていない。

 まあ、元々屋上では語るつもりは無かったが。このあたりでもう、いいだろう。スマホの向こうにいる犯人に向けて、「いいな、言うぞ?」と無言の念を送る。


「さしあたってまず1つ――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 弾幕と瓦礫の雨を浴びながら、敵をなぎ倒して突き進みながら、最後の角を曲がった。


 大きな扉が視界に入る。あそこをくぐれば外だが……当然閉じているし、どうやら施錠もされている。もちろん敵兵もわんさかと。「扉を開けるために奴らはここで必ず止まる!」「降りてきたところを制圧しろ!」などといった指揮が聞こえてくる。


 構うものか。窓から顔を出し俺は、後ろにいる4人に向かって叫んだ。


「出口見えたぞ! ここ抜けたらもう逃げ切り完了、出し惜しみ無しだ! 武装展開!」

「ぶ、ぶそうてんかい!?」


 戸惑うドレミをよそに、トラックの荷室がガシャコンと変形していき、荷室側面からゴツい機関銃が出現した。半身乗り出し引き金に指を添えるアイもセットで、サイドミラーに映っている。反対側ではセフィラも同じように機関銃を構えているはずだ。


「次からそのダサい掛け声だけ変えてくれへん? 男の子やなあ」

「っしゃぁーーーーっ!! 全員! 死にたくなかったら道を開けるのです!!」


 反撃開始。ダラララララ!!! と、トラックの両サイドから出口に向かって銃弾の雨が乱射されていく。


 そこに群がっていた敵兵はもう逃げの一手だ。武器も放り捨てて射程圏外へ、三々五々に散っていく。


「……フィナーレ。これが本物の、火の玉ストレート」


 頭上の方からスノウの声。いつの間にか運転席上部によじ登っていたスノウが、最後の仕上げとばかりに前方へ手のひらサイズの物体を投擲する。


 爆弾、だった。メジャーリーガーもビックリのとんでもない球威で飛んでいったそれは、扉の中央に見事命中し、爆音・爆風とともに壁ごと扉を吹き飛ばす。


 と、ほぼ同時、爆炎の中を正面突破で突っ切るトラック。次の瞬間には、フロントガラスの向こうにシャバの風景が広がっていた。


「っし……抜けた! というか今の、スノウあいつ生身で……無事か?」

『吹き飛ばされてたけど、後ろでミラがキャッチしたよー。というよりは、ミラが伸ばした手をスノウが的確に掴んでくれたって感じだけどー』


 燃えて崩れる館を背に、敷地を走り抜け、森を突っ切る広い道を一直線に進んでいく。

 これでミッション完了。脱獄成功だ。一息つく俺の隣からも、疲れ切ったような呆れ切ったような声音が飛んでくる。


「……なるほどね、軍事兵器。ウイルスじゃないにしても、そりゃ、世間様にお披露目できない『秘宝』にもなるか。3億円するのも納得ね。製薬会社の社長がこんなの個人で所有してんじゃないわよ……」

「材料費で3億って話だから、売値で換算したらもっと高いだろうな。ともかくこれが秘宝〝ブラックカーテン〟の真相だ。『どうやって失わせたのか』ばかり俺達は考えてたけど、拍子抜けだよな。ずっと目の前に置いてあったっつーんだから。ああ、あと、()()()M()i()s()s()i()n()g()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はあ?」

「4人全員共犯ってのはさすがに、してやられたな。後から思えば確かに……全員グルなら、犯行声明を置くのは簡単だ。トラックを搬入するときに置けばいい。カメラに映らないように、誰かがこっそりな」


 犯行声明はトラック搬入と同時に置いた。秘宝は消えずにずっとそこにあった。


 この3日間、財宝部屋に侵入した人間はいなかった。なら、映像を改竄する理由は無い。映像改竄トリックなんて、何も必要無かったのだ。


 これは本人達に直接聞いた話だが、〝怪盗Missing〟のネーミングも遊び心らしい。ミラージュ、スノウ、セフィラの頭文字を取り、アイを『i』として、合わせて〝Miss〟。という、雑なもじりで名前を決めたという。あいつららしい適当さだ。


「いや……でも、そうよ、犯行声明があるじゃない。今の説明だと、財宝部屋から何も消えてないし何も盗まれてない。犯行声明は嘘だったとでも言うの?」

「いいや、犯行声明で嘘はつかない。怪盗の矜持はちゃんと守られてるよ。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ」

「予告状? ――――って、ヤバ……サグル!」

「っっっぶねぇえ!!」


 急ハンドルと急ブレーキで車体が大きく悲鳴を上げた。


 進行方向に、突如として現れた敵軍団。

 現れたというか、ギリギリ寸前で視認できた。夜の闇に紛れて待ち伏せしていた、フル装備の敵軍と、道を塞ぐ車両やトラップも見て取れる。このトラックでも強引に突破できそうにない程度には頑強なバリケードだった。


「〝ブラックカーテン〟を逃走車両にするのも想定済みか……!」


 銃弾を浴びながらドリフト旋回して急停止するトラック。車両用トラップの手前でギリギリ止まれたが、逃げ道が完全に塞がれた。タイヤに絡めて機動力を奪うタイプのトラップ……装甲がどれだけ分厚くても無意味か。強引に突破しようとすれば高確率で詰む。なのに、アジトは海と森に囲まれた立地になっていて、トラックで抜けられる通路となるとこの一本道しかない。


 さて、次の一手をどうするか。ギリギリトラックが通れそうなオフロードも無くはないが……、と思考を巡らせた一瞬の後、


『――――そこまで』


 と、どこからともなくレオンの声が響き、トラックを叩く弾幕は一気に収まった。

 敵兵の通信機からだ。レオンの声は俺達に向けて続けられる。


『チェックメイトです、サグルさん。他の抜け道を模索してるなら無駄ですよ。あらかじめ、あらゆるルートを潰してます。物理的にもう隙間がありません』

『……そいつの言葉は正しいでサグルちゃん。見える限りの抜け道全部、バリケードで塞がれとる。軽自動車1台も通れそうにないわ』


 夜目の利くアイが周囲をチェックしたようで、スマホの向こうでそう呟いた。レオンめ……抜け目無いな。


『トラックから降りようものならもちろん蜂の巣ですし、だからといってそのまま籠城戦というわけにもいかないでしょう? それに、切り札の武器というのはこちらにも用意があるんですよ』


 アジトにいた敵部隊が道を辿って追いついてきた。トラックの退路を断つように並び、さっきは見なかった物々しい武器を複数こちらに向けている。

 ……ロケットランチャー!? なんつーもん持ち出してきやがんだレオンの野郎!


『心中はごめんなのでさっきは控えてましたが、屋外(ここ)でなら撃てますよ。動けば撃ちます』

「……。バカめ、このトラックは最新の装甲車だ。そんなもん効くとでも、」

『らしくない悪あがきはやめてくださいサグルさん。〝ブラックカーテン〟のことくらい百も承知ですし、当然それをぶち破れる攻撃力を搭載してきました。なんて、言わなくても分かってたでしょう?』


 敵の通信機から返事が返ってくる。姿は見えないが、どこかにいるレオンは俺達の状況も声もしっかり拾っているようだ。戦況の把握においても、憎たらしいほど隙が無い。


『さて……最後の取引です。最後の親切です。10秒あげます。ドレミさん、大人しくこちらへ。あなたの身柄さえ確保すれば、お仲間の安全は譲歩しましょう。もちろん断れば撃ちます。もし運良く生きてたら、死体寸前のドレミさんを回収して帰ることにしますね』


 と。

 レオンが言い終わるよりも早く、ドレミは動き出していた。

 俺がその手首を掴んでいなければ、そのままドアを開けて外に出ていただろう。


「離して」

「どこに行く気だ?」

「ちょっとお花を摘みに。デリカシーの無い男はモテないわよ?」

「そうか。じゃあここで漏らせ」

「デリカシーがゴミすぎる!」


 はあ、と大きな溜息を吐いて、改めてドレミは口を開く。


「事ここに至って、まだ抵抗するつもり? さすがにもう詰んでるわよ、見たら分かるでしょ? むしろこの状況で相手が譲歩してくれるのは僥倖でしょ。損切りと引き際を見極めるのが裏稼業の鉄則よ」

「引き際? 諦めるのが早いな。まだあと10秒あるぞ」

「10秒って……、何ができるのよ、そんな時間で!」

「あいつらの意思を確認できる。――――ドレミがこう言ってるが、どうだ?」


『『『『却下っ!!!』』』』


 即答で、4人の声が重なった。


『間違えんなやドレミちゃん? 今回、ドレミちゃんを盗み出したんはうちらやで。盗んだ財宝は怪盗のモン。財宝(あんた)はこの件、発言権無いから黙っとき』

『……泥水1滴でも入ったらワインは台無しになる。つまりは、そういうこと』

『いや、どういうことですか。絶妙に意味分かんないことをそれっぽく言わないで。スノウさんも黙っててください』

『というかー、欲しいものを諦めるなんて、怪盗失格だけど。ドレミは欲しくないわけー? 完璧完全なハッピーエンド』


 迷い無き4人の声を浴びて言葉を詰まらせているドレミに、俺は言う。


「だとよ。それと、お前もレオンも前提が間違ってる。まだ、詰んでるつもりはさらさら無いぞ? 想定通りのルートだ」

「え……?」

『さて、10秒経ちました。それが答えということでいいんですねドレミさん? では皆さん、制圧を――――おや?』


 何か違和感に気付いたらしいレオンの声。

 レオンの言葉に反応する敵兵は誰もいない。動かない。呆然と、意識も曖昧なまま、虚ろに突っ立っているのみだった。

 10秒与えたのはミスだったな……おかげで時間稼ぎの手間が省けた!


「レオン、お前がどれほど詳細に戦況把握していようと、遠隔からじゃ無色無臭のガスにまでは気付けまい!」

「あ……それって」

『〝調合魔法(グリモワール)〟! 発動完了なのです!』


 スマホの向こうにいるセフィラのドヤ顔が目に浮かぶ。というか、そのネーミング気に入ってたのか。


『何のためにアジトを森で囲んでると思ってるんですか? 有事の際に備えて植物を仕込むためなのですっ! 臨機応変に7種類のガスを使い分けられる仕様で、フィールドアドバンテージどころじゃない私の無双ステージですよ?』

「〝ブラックカーテン〟に備わってる大出力の送風機能。あちこちでバリケード張ってる敵陣全員、ガス散布の有効範囲内だ」


 アクセル全開、すでにトラックは発進している。来た道を戻り、アジトの方へ。

 当然、敵兵は俺達を完全スルーだ。究極の放心状態、だったか……改めて、とんでもない薬品だな。


 トラックはそのまま、全速力で、


「ちょっと……! アジトに突っ込む気!? そんな自殺行為……、あ……まさかっ」

『サグルちゃん、カメラもう完全にオシャカやわ!』

「じゃあ完全に運任せだな、ここからは!」


 先程空けた入り口の大穴から、弾丸のように突入するトラック。


 火に包まれた建物内を突き進む。行き先は1つしかない。ドレミは察した様子だ。が……そもそも、そこに辿り着けるかどうか。道が塞がってるどころか、次の瞬間には倒壊していても不思議じゃない。

 と、焦る俺の隣から、ドレミの声。


「……。サグル、西の通路はダメ、潰れてる」

「えっ」

「邪魔な瓦礫の山がいくつかある。セフィラとスノウは爆弾準備。小さめでいい」

「なん……で、そんなこと分かるんだ?」

()()


 窓を開け、目を閉じ、研ぎ澄まされた集中の中でドレミは静かにそう呟いた。


 なるほど。

 ならば、疑う理由は無い。虚勢よりはもう少し感情のある笑みを浮かべ、俺はペダルとハンドルに力を入れる。


「アイっ、さっきの時点で、一番ダメージ大きかったのはどこ?」

『天井のヒビ、E−3通路。そん次はR113の壁』

「ミラ、コンクリって燃えて脆くなる?」

『燃えないけどー。アジト(うち)の建築素材だと、火災でコンクリート爆裂するかも』

「遠回りしてる余裕は無いわね……、リスク取ってでも速度優先。塞がった道は適宜爆弾で除去。OK?」

『任せるのです!』

『……らじゃ』

「強引にでも突破できない道は避ける。私が指示する。日和ってアクセル弱めちゃダメよサグル、道はあの子達が作ってくれるから」

「ふん……、了解、リーダー」


 俺の返答に、ドレミは思わずといった様相で表情を緩ませた。

 ここに来て初めて、〝晴れやか〟と表現して相応しい笑顔がそこにあった。


「ったく……まったく! 私がいないとダメね、あんた達は! しょーがないからもう少し、私が引っ張っていってあげるわよっ!」


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