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怪盗結社ファントム・ガールズの事件簿  作者: 一星
第六章 盗聴怪人
24/28

えいっ


 レオンがここにいることに心底驚きはしたものの、レオンが〝暗渠〟の一員であること自体は正直言って、予想通りだった。


 昨日再会してから、ずっと考えていた。

 何故、レオンは最後にあんな助言をしてきたのだろうか?

 何故、ドレミと〝暗渠〟の密約などという、クローズドな機密情報をレオンが握っていたのだろうか?


 裏社会の情報リテラシーは極めて高い。文字通り死活問題だからだ。〝ファントム・ガールズ〟と情報屋との連絡もこれ以上無いほどしっかり暗号化されているし、管理能力がゴミクズのドレミでさえ、そこのセキュリティ意識はしっかり持っていた。最終的にみんなにバレてしまってはいたものの、それはやはり『身内だから』という例外要素の賜物だろう。

 身内じゃなければ、決して明るみに出ることのなかった密約だった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。


「どこから、疑っていたんですか?」


 愉快と警戒を足して2で割ったような表情で問いかけてくるレオン。

 ふん、と俺はまず鼻を鳴らして返事とする。


「最初に投げ飛ばされたときから、ずっとほんのり怪しかったよ。おもちゃのナイフを常備する奴がどこにいるんだ。あとアンパンも。『たまたま見かけた』とお前は言ったが、最初から俺に出会う気満々だったじゃないか」

「別に常備しててもいいじゃないですか。アンパンはほら、えーっと、あなたを見かけてから急いで買いに行ったんです」

「じゃあ時系列が合わないな。あのアンパン、焼き上がってから4時間は経ってるぞ」

「? は?」

「轟ベーカリーの〝焼き立てパン〟へのこだわりは凄まじくてな、アンパンは遅くても2時間で廃棄されるんだ。で、あのときのアンパンは4時間経ってた。そのくらい食えば分かるよ。あの店のアンパン、どれだけ食ってきたと思ってんだ」


 レオンはしばらく、リアクションを探している様子だった。

 やがて、「ぷっ」と吹き出し、


「ははははっ。何なんですかあなた。変わってないなあ、このアンパン狂人め。そんな意味不明な穴を突かれて崩されるとは思いませんし、対策できませんて。さすがですね、やっぱり」

「俺が狂人ならお前は奇人だ。お前こそ何なんだ。……何でなんだ? 理由を聞かせろ」

「そりゃもちろん、サグルさんに会いに行くんだから、アンパンを手土産にすべきだと思いましてね。ご明察の通り4時間ほど前にあらかじめ購入しておいたものです」

「そんなこと聞いてない」

「サグルさんに会いに行った理由ですか? ドレミさんの密約の件を仄めかすためですよ。あれくらいの情報を与えれば、サグルさんなら真実に辿り着いてくれるでしょ? そして、ドレミさんを追い詰めてくれる。思惑通り、しっかりとドレミさんの本音を暴いてくれました。僕としてもこれで迷いなく交渉決裂の判断を下せたわけです。いやー、手のひらの上で踊ってくれてご苦労さまです」

「そうじゃない……そこじゃない! そんなこと、どうでもいい……っ」


 そんなことは、少し考えれば分かることだ。

 レオンが〝暗渠〟の身内であるという真実も、すぐに辿り着けた。

 だけど……そこからどれだけ考えても、一番大きな疑問は、まだ解けない。


「お前何で、〝暗渠〟にいるんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

「おや、そんな風に思ってたんですか、サグルさん? ジュリアさんを殺した犯人はもうブタ箱にぶち込んだじゃないですか」

「実行犯個人を捕らえただけだ」

「そうです。恨むべきはもっと、もっと巨大な枠組みです」


 のらりくらりと、はぐらかされている感覚。というよりは……時間稼ぎか?

 するとそこで、ずっと黙って会話を聞いていたドレミが「ねえサグル」と口を挟む。


屋上(ここ)に、人が向かってきてる。足音から察するに15人……いや、17人。全員、銃火器装備の音がする。戦闘音は無かったから、あの子達は無事だと思うけど……」


 制圧部隊か。交渉決裂して、レオンの指示で突入してきたようだ。

 にしても、アジトのトラップ解除するの早すぎるだろ……っ、さすがに有能だな。


「……。逃げるぞ、ドレミ」


 レオンから目を離さず、俺はドレミに囁きかける。

 あの男1人と戦っても勝てないのに、援軍が到着したら詰む。他の選択肢は無い。

 これから実行しようとしてるとある策を、長々と説明してる余裕も、無い。


「レオンをすり抜けて脱出するのは不可能だ。あいつの身体能力はスノウに並ぶと思え。俺達が何をどう動くよりも先に制圧される」

「じゃあどうすれば……」

「虚を突く。隙を作る。……俺に、任せられるか」


 今からやることを。

 怪盗結社〝ファントム・ガールズ〟の命運を。


「『信用しろ』とは言わん。それでも、俺の戦略に委ねてもいいと、〝信頼〟できるか?」


 似て非なるその言葉。信用よりももう少し、根拠に基づいた二文字。

 ドレミと俺が、互いのことをどのくらい理解しているのか。その濃淡が生む関係性は、『こいつに任せても解決できなさそう』と思われたら一瞬で終わる薄氷だが、


「もちろん。戦略立案はあんたの仕事よ、サグル」


 ミリ秒の間も置かず、ドレミは即答だった。俺は思わず口端を歪める。


「今さら作戦会議してどうなりますか? 無い道は開けませんよ。連れて来た全戦力、あと1分もしない内にこの屋上に集結します」


 大袈裟に肩を竦めながらレオンが口を挟んできた。


「そういえば……覚えてますかサグルさん? 1年前、僕達が最後にやっていた勝負はカードゲームでしたね」

「ああ、覚えてるさ。ゲームを中断してそれっきりだったから、決着は着いてなかったな」

「手札を揃えて、フィールドを展開して、相手を追い詰める戦略勝負カードゲーム。まさに今この盤面こそ、あのときの続きみたいだと思いませんか? 1年越しです。今日、ようやく勝てる」

「ふん。悪いが、切り札を全部切って俺は逃げる。決着はまたお預けだ」


 腹立たしい高慢な言い草のレオンに、俺は言い放つ。

 言い放ちながら、ドレミの手からそれを奪い取り、



「えいっ」



 そして俺は――――アジトに仕掛けられた大量の爆弾の、起爆スイッチを押した。


「え?」

「は?」


 素っ頓狂を絵に描いたような表情のレオンとドレミの背後で、轟音が響いた。



 ――――BbbbOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMMBッッッ!!!!!!!!



 よし。


「今のうちだ、行くぞドレミ!」

「……、……っ、……!? そ……っち、海だけど! えっ!?」


 唖然と突っ立っていたドレミの手を引き、柵を飛び越えて。

 ドレミと一緒に俺は、屋上から飛び降りた。


「え? え? ぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!?!?!?」

「うっさい、舌噛むぞ。――――っと」


 バフッ、と。盛大なオノマトペに包まれる。


 いつの間にか降ろされていた跳ね橋の上。衝撃吸収の巨大エアクッションが、俺達の落下を受け止めてくれた音だ。事前の打ち合わせ通り、タイミング良くセッティングしてくれたらしい。

 財宝部屋C−1の入り口で、セフィラが手招きしているのが見える。


「お二人とも、急いで!」

「ああ! ほら行くぞ、立てドレミ」

「……、」


 クッションの上で倒れ込み、呆然と虚ろを体現したような表情で息切れしているドレミ。俺を睨みつける瞳にも、力が籠もらない様子だった。


「この……っ、飛ぶなら飛ぶって、一言……」

「言ったらレオンにバレるだろ。アジトが崩落する前に脱出するから急げ。もうみんな準備できてる」

「脱出って……海?」

「違う、そっちじゃない。お誂え向きの車両があんだろ」

「あ……」


 トラック。

 財宝部屋に保管してあるそれに、全速力で乗り込んでいく。助手席に乗り込んだドレミを確認し、俺は運転席でエンジンをかける。


『もういいよー、出発して』


 荷室に乗り込んだミラージュの声が俺のスマホから響く。


「まだスノウが跳ね橋にいるけど、いいんだな?」

『だいじょーぶ、スノウなら乗り込めるよ』

『スノウちゃんが来るの待つより、こっちが突っ込んで行った方が早いやろ』

「よし、じゃあ行くぞ!」


 アクセル全開のバック走行で跳ね橋を後退していく。くっそ、何で前向き駐車してんだよ煩わしい!

 クッションを片付けて道を開けていたスノウが、さすがの身体能力で荷室に飛び込んだのが視界に入った。

 これで、後は脱出するだけだ。

 アジトが崩壊するより先に。


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