さて、迎えに行こう
スーツ姿の男は、森の中をゆっくりと歩いていく。
ゆっくりと。音を消して。気配を殺して。それでいて、自然体で。一見すると、ただ散歩しているようにしか見えない。いや、こんな夜中にスーツで森を歩いている光景がそもそも違和感でしかないので、どうあれ、ただ散歩しているようには見えないか。
手元の端末に表示されたGPSの反応を頼りに、その場所へと向かって進む。
そして、
(……ここが、そうか。随分とご立派なことで)
森を抜け、男の目の前に広がる景色。海を背にして崖の上に聳え立つ、広い敷地の大きな館。――――怪盗結社〝ファントム・ガールズ〟のアジトがそこにあった。
これだけ目立つ拠点が、よくもまあ今まで見つからなかったものだ。
一流の怪盗が揃う結社だからこそか。わずかな隙も見逃さず、どこにでも忍び込んでどんな財宝も盗み出す、令和に生きる本物の怪盗達。その犯罪スキルは言うまでもなく、セキュリティにも転じれる。わずかな隙を全て埋めれば最強の要塞だ。
でも、セキュリティというのは外敵に対して講じるものである。
内側は得てして脆い。
内側から破壊してしまえば、どんなセキュリティも意味を成さない。
(さて……〝あの人〟は、仕込み通りに動いてくれているかな? 予定通りなら今頃……)
近くの草むらで、音も無く影が揺らいだ。
気付けばそこに、特殊部隊のような黒い装備を身に纏った男が、アサルトライフルを持って立っていた。
『総員、配置完了。ポイントは全て潰した。逃走ルートは無い。ネズミ一匹逃がさない』
黒装備男から、声は発されず、ハンドサインのみで放たれる無音の言葉。対するスーツ男もまた、ハンドサインで無音の返答を返す。
『了解。そのまま待機だ。爆発にも備えておけ』
雲に隠れていた月が徐々にその姿を現していく。
満月に近い、輝かしい金色。
月光を避けるように男は、木の陰にそっと隠れる。夜の闇が正装代わりの裏稼業にとっちゃ、少し明るすぎる光だ。
『一応確認しておくが、武力はあくまで保険。お前達の力を借りるのは、交渉が決裂したときだけだ』
『御大層な〝話し合い〟だな』
『丸腰で行くと無礼だろ?』
それじゃあまるで、相手を信用しているみたいじゃないか。
裏社会に信用は無い。武力も含めて〝話し合い〟だ。抑止力ゼロの丸腰で挑もうなんて、舐めプでしかない。
月が生み出す木陰から、男は館の方を覗き見る。
『さて、迎えに行こう。我々〝暗渠〟の新たな仲間を』




