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怪盗結社ファントム・ガールズの事件簿  作者: 一星
第五章 盗視怪異
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サグルちゃん、耳フェチらしいやん


 怪盗アイ。

 コードネーム〝盗視怪異(ホロスコープ)〟。

 本名、目黒愛美。好きなものは魚料理、嫌いなものはパクチー。


〝ファントム・ガールズ〟の中で、俺が把握している数少ないパーソナルデータだ。というのも、アイはこの学校の生徒会役員であり、学校のホームページに簡単なプロフィールが載っている。本名はともかく、好き嫌いが真実かどうかは不明だが。


 お茶漬けをかき込んでる俺にアイは、今度こそお茶の準備をしてくれた。


「……お茶漬け勧められてほんまに食うなや。ふてぶてしいっちゅーか、性根が捻じ曲がってるっちゅーか」

「勧められたからそれに従った。これで何か問題があるならお前の責任だ、アイ。それに、性格の悪さをお前に言われたくはないな。ごちそうさま、美味かったよ」

「お粗末様。次はお茶漬けやなくて盛り塩でも用意しとくわ」


 嫌味ったらしくそう言いながらも、本気で俺を追い返したいわけじゃないのかアイは、手間をかけてしっかりティーを蒸らしてくれている。相変わらず腹の読めない、掴めない女だ。


 茶葉の入ったガラスのティーポットから、陶器のカップに赤いティーが注がれていく。


 パックのご飯をレンジでチンしたときも思ったが、何でそんなものが生徒会室にあるんだ。見れば、他にも漫画やコーヒーミルやたこ焼き器まで置いてある。

 ウォーターサーバーの隣に置いてある、同じくらいの大きさの謎の装置、あれは何だと思ったら、ポップコーンメーカーだった。


 やりたい放題か。


「ティーのお供にアンパンも、良かったら。5種類あるけど、どれがええ?」


 アンパンまで……しかも5種類も。

 アイが手に持って掲げた、個包装の5つのアンパンのうち1つを俺は示し、受け取る。


「サンキュー、助かるよ。今日は色々あってな、糖分不足のアンパン不足だった」

「まあ、大変そうやねサグルちゃんも。話は聞いとるで」


 自分のカップにもティーを注ぎ、テーブルを挟んで対面のソファにぽすんと座るアイ。

 所作や口調は上品とは言えないはずなのに、やけにティーの似合う女だ。カップを一度口に運び、その薄ら笑みを俺に向ける。


「サグルちゃん、耳フェチらしいやん」

「違うっ!」


 何の話を聞いてるんだ。


 セフィラの憎たらしい顔が浮かぶ。捏造した情報を第三者に流すな……っ。フェイクニュースとはこうやって巡るのかと実感させられる。


「にししっ、冗談や。冗談。あらかたの事情はほんまに把握しとるからご心配なく、〝名無しの探偵(アンノウン)〟」


 そのコードネーム……いや、そもそも、俺が元探偵である事実もだ。もうすでに当然のようにメンバー全員に情報共有されているようだ。


 ……その情報共有力、もう少し組織運営の方で役立ててもらいたいものだが。そうすればアジトの公共料金を払い忘れるという失態も起きない。いやまあ、それはまだ「このズボラども」と言って理解できる話だが、秘宝〝ブラックカーテン〟盗難の大計画をリーダーのドレミの預かり知らぬところで勝手に決行してたりするからやっぱり容認できない。

 本業だろう、そっちは。

 俺の噂を回すより先に、報・連・相をちゃんとやれ。


「……というかそういや、何で出来立てのお茶漬けが用意してあった? 俺が来ることは聞いていても、来るタイミングまでは読めないはずだ」

「何でも何も、見えたから。校門から堂々と入ってきてたやんサグルちゃん」

「いや……この部屋から校門も昇降口も見えないだろ」


 角度的に、絶対に見えないはずだ。窓からどんなに身を乗り出しても。

 そんな俺の疑問に、アイは涼しい顔してさらっと答える。


「直接は見えへんよ。向かいの校舎、あのガラスに反射して映り込んでたから見えただけ」

「……見えねーよ普通は」


 向かいの校舎って言っても、すぐ目の前にあるわけがない。何メートルも離れている。そこの……鏡ですらなく、ただのガラスに映り込んだ、数十メートル先の校門の光景の、その中にいるたった一人の俺の姿を捉えたというのか。

 くすりと笑い、愉快そうにアイは続ける。


「はっきり見えたで。女子どもにキャーキャー騒がれながら、アイドル気取りで対応しとる姿もな。いけ好かん男やで」

「誰がアイドル気取りだ! 他校の制服で目立ってただけだ。事実を歪めて勝手に嫌うな」

「ほーん。事実ではあるんやけどねぇ。伝説の名探偵も自分のことやと鈍感か?」

「事実であってたまるか。アイドル気取ったことなんて人生単位で一度も無い」

「いや、そっちやなくて……ふむ。ほんまに分からんねやなぁ」


 何がだ。そう聞くより先にアイは再び口を開く。


「まあそら、一匹狼こじらせて周囲と壁作りまくったぼっち高校生サグルちゃんが、人の心とか感情に鋭いわけがないけども」

「ええい、うるさいなっ! なんなんだよずっと!」


 悪口が止まらない。

 メンバーの中で一番性格が悪い女といえばこいつだ。


「まあええわ。んなことより、世間話はそこそこに。用件は手短に。これでもうち、多忙を極めとるんよ。見ての通り、今うち一人やねん。生徒会業務が山積みのてんてこ舞いや」


 てんてこ舞い、には見えないゆとりある態度で、大袈裟に肩をすくめてみせるアイ。

「ああ分かってるよ」と返答し俺は、アイの他に誰もいないそこそこ広い生徒会室を見渡す。これだけやりたい放題に部屋を私物化できているのも、アイが一人だからか。


 今、だけじゃない。

 常に、アイ一人なのだ。


 比喩じゃなく、本当に文字通り、この学校の生徒会役員はアイ一人だけらしい。生徒会に入って以降、その業務の全てをアイが一人で切り盛りしている。


 いやもちろん、本来はそんなことはできない。この学校のルールとして、生徒会はそれぞれの役職に就く役員が揃ってなければならない。生徒会長は選挙で選ばれ、その他役員は手続きに則って志望者が就任する。志望者がいなくても、各役職に最低一人、集めるのは生徒会長の最初の仕事だという。特別なことは何も無い、普通の学校の、普遍的な生徒会のあり方と言えるだろう。


 それを歪ませたのが、この女、目黒愛美だった。


 実は、書類上は問題無い。生徒会役員は各役職に揃っている。ホームページにもプロフィールが掲載されている。――――ただし、生徒会庶務の目黒愛美以外は、存在しない架空の生徒なのだが。


 どういう手法を使ったのかこの女、架空の生徒をでっち上げ、それを役員として申請し、公的に通してしまった。

 通した、どころじゃない。生徒会長も架空の生徒ということだ。選挙はどうやって乗り切ったのだろう。その後も、どうやって乗り切っているのだろう……。


 幽霊部員ならぬ、幽霊会員だけで構成された、まやかしの生徒会集団。

 幽霊部員よりも幽霊だ。本当に存在しないのだから。


 そうして、アイの一人生徒会は完成した。完成し、運営している。そもそもが有能なアイであり、生徒会の業務全般はたった一人で機能できている。俺には検討もつかない手腕でこの異常事態は表沙汰になることもなく、故に誰も気付かない――――この学校が現在、生徒会庶務の女子生徒によって独裁支配されていることに、誰も気付いていない。


 ……改めて考えると、背筋の凍る大事件だ。

 俺は〝ファントム・ガールズ〟の中で、この妖怪じみた女が一番恐ろしく思う。


 その薄ら笑みの奥にある、深い深い腹の内は、いつまで経ってもどこまでも底が見えない。


「そうだな。さっさと本題に入ろう。手短に、端的にだ」


 俺は居住まいを正し、改めて口を開く。


「お前達が盗んできた秘宝〝ブラックカーテン〟が、〝怪盗Missing〟なる何者かに盗まれた事件だ。およそ不可能犯罪で、これはどうも、内部に協力者がいるんじゃないかという推理に現状なっている」

「せやな、聞いてるで。ほんで、うちらのパーソナルデータを調査して回っとんねやろ? そんなことのために学校まで来やんでも、後でなんぼでも教えたるのに」

「できるだけ早い方がいいからな。捜査撹乱されたらたまらない」

「他のメンバーが今、証拠隠滅しとるかもやで? 放っぽり出してこっち来たってことは、よっぽど容疑者なんやねぇ、うち」

「ああ。まあ、結論から言おうか」


 俺は淡々と言った。

 このセリフも、口にするのは随分と久しぶりだった。



「犯人はお前だ。怪盗アイ」


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