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怪盗結社ファントム・ガールズの事件簿  作者: 一星
第五章 盗視怪異
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歓迎の証にどうやろか、お茶の代わりにぶぶ漬けでも

 卒業してからまだ1年も経っていないというのに、高校生だった自分がすでに遠い過去のように感じる。


 大学に進学していたらまた違っていたのかもしれないが、社会人として生活している今では、学生の頃の名護探繰(なごさぐる)はまったくの別人であるかのような感覚だ。中学から高校に進学したときとは、変化の質がまるで違う。別の社会、別の世界を生きているような、明確な分断がそこにある。


 いや。

 高校時代は表社会で探偵機関に、卒業後は裏社会で怪盗結社に……俺の場合は実際に別世界を生きてるようなものだけど、そういう話ではなく。


 二度と戻れない、〝過去〟という体感が強い。と、表現するのが近いだろうか。


 学生という時代は。

 高校という薔薇色の空間は。クラスメイトとのやり取りは。友人との放課後は。想い人との青春は。ほんの3年間だけ許された、人生の着色作業なのだ。どれほど色鮮やかでも、後から振り返ればただのキャンバス。そこに入ることはもうできない。経年劣化で色褪せていく様をただ眺めるしかできない。


 自分は本当にそこにいたのだろうか。画面の向こうでも見るような、他人事のような感覚になる。モラトリアムが終わってしまえばこんなものだ。


 いや。

 友達がいなくてクラスメイトとも喋らなくて青春などとは程遠い高校生だった俺は、世間一般で言われる薔薇色の高校生活なんてものはハナから他人事のように思っているけれど、そういう話でもなく。


 要は、〝もう終わったもの〟という意識が強いのだ。卒業はそのための儀式なのだと思う。『前に進め』と。卒業という境界で、未来と過去を分断される。


 だから、今の俺が――――高校の制服を着用して、高校生達に紛れて高校の目の前に立っている今の俺が、居心地の悪さを覚えているのはそういった理由なのだろう。


 着ているブレザーが、どことなく重く感じられた。


「……っし、行くか」


 少しだけ躊躇っていた足を動かし、俺は目の前の校門をくぐっていく。


 俺の母校ではない。じゃあどこなんだと聞かれれば、怪盗アイが現役で通っている母校である。俺も、来るのは初めてだ。どこに何があるのかも分からない。


 下校していく生徒や部活に勤しんでいる生徒はまだそれなりに散見され、彼らからの視線をひしひしと感じる。俺が19歳であることがバレたわけではない――――一目見ただけでそんなことが分かるのならこの高校はとんでもないレベルの名探偵揃いということなるが、そんなわけはないだろう。シンプルに、着ている制服が異なるのだ。


 さすがに、あのアジトに、この高校の男子用制服は常備されていない。ミラージュのアトリエに行って、代わりとなる変装一式を借りてきたら、こうなった。俺としては、用務員的な服でもあればそれで十分だったのだが。


 目立ちすぎるのは避けたいところだ。やっぱり用務員服にしておけばよかった。早く用事を済ませよう。俺は近くを通りがかった女子生徒に声をかける。


「ちょっと道を聞いてもいいかな? 生徒会室に用があるんだけど」

「えっ、あ、生徒会室は……あそこの校舎の4階の突き当たりですけど」

「分かった、ありがとう。助かるよ」

「い、いえ、どういたしまして! あの……どこの高校の方ですかっ?」

「ん? まあ……ちょっと遠くの方でね。君達には見慣れない制服かもね」


 この制服はミラージュの普段着と同様、彼女が自作した、〝存在しない高校の男子制服〟らしい。……何でそんなもの作ってんだ。着るのか?


 女子生徒の質問を適当にはぐらかし、俺は指定された校舎へと入っていく。

 4階、突き当たり、ドアの上に掲げられた『生徒会室』の文字。ノックすると、中から「どうぞー」と聞こえてくる。

 ドアを開けると室内には一人、細目と薄ら笑みが特徴的な、栗色の髪の女子生徒。


 俺が来ることなんてお見通しだとばかりに、2人分のティーカップを用意してお茶を淹れながら出迎えてくれた。


 いや……ティーカップじゃない。あれは、お茶碗か。


「いらっしゃいサグルちゃん、遠路遥々我が校へ。歓迎の証にどうやろか、お茶の代わりにぶぶ漬けでも」


 あまり歓迎はされていないようだった。



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