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怪盗結社ファントム・ガールズの事件簿  作者: 一星
第三章 盗足怪鳥
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脳も冴える気がしてくる

 秘密主義のスノウに事情聴取しても結局何一つ教えてくれなかったわけだが、スノウに事情聴取してみたおかげで分かったことが一つある。いや、いざ聞いてみるまで気付かなかった俺が間抜けなだけだけど。


 この事件、アリバイ調査は無意味だ。


 聞いての通り、スノウのアリバイは穴だらけだし、おそらくそれはメンバー全員そうだろう。3日間ものアリバイが全部完璧なんて奴はいまい。


 よしんばいたとして、結局、やっぱり意味がないのだ。


 3日間、どこで誰が何をしていようと関係ない。

〝怪盗Missing〟の協力者としての役割は最低限、昨夜0時ピッタリに、メンバー全員のよそ見を促すことだけなのだから。


 あとは強いて言えば、アジトおよび財宝部屋へ侵入する手助けをするくらいのものだが……これも別に、メンバー全員がアジトにいない時間を見計らって招き入れればいい。この3日間、アジトに誰もいなかった時間帯は、俺が把握するだけでも3回はある。


 招き入れる必要すら無いかもしれない。〝怪盗Missing〟が超一流の怪盗だとするなら、時間と手間さえかければロックもトラップも回避できるし、財宝部屋に侵入まではできる。アジトが無人になるタイミングさえ教えてあげれば、勝手に侵入してくれる。その後、アジトに帰ってきた協力者が跳ね橋だけ戻してやれば隠蔽完了だ。


「……いや」


 違うな。


 広くて長いアジトの廊下をゆったりと歩きながら、俺は俺の思案を一蹴する。

 それだけじゃダメだ。監視カメラの問題が全く解決していない。

 0時ピッタリに財宝部屋から脱出した。その瞬間が映像記録に残っていない。


 ――――俺は先程、映像記録をしっかり確認した。ドレミの姿が映っているデータだけじゃなく、0時前後のデータも、その前後の記録もだ。


 1時間ごとに保存される監視カメラ映像は、延々と無人の部屋を映すだけのものであり、映像改竄は容易だ。前の1時間のデータをコピーすればいいだけだから。

 変化の無い室内映像を誤魔化すなら、それで十分すぎる。

 0時に堂々と脱出して、そのシーンが映っているデータを別のコピー映像と差し替える。それだけでいい。


 と……思っていたのだが。

 それだけじゃダメだった。見落としていた。変化の無い室内、じゃない。変化はちゃっかり、しっかりあった。


 月。

 の影が。部屋の中にはしっかりと映り込んでいる。


 西側に1つ設置された窓。窓そのものは画角に入っていないので、海の波などが映っているわけではないが。


 それでも、晴れた夜、0時はキレイな満月。窓から差し込む月明かりは、暗い室内に影を落とし込む。言うまでもなく月は動くし、影は流動する。前の1時間の映像とははっきり違う、0時時点での影の形がそこにあった。


 試しに前の1時間をコピーして、続けて視聴してみたのだが……続けて見ると明らかに違和感を覚える。変化の無い室内だからこそ、唯一変化のある影は、少し違和感があると一目瞭然だった。ドレミが気付かないとは思えない。雲のある無しによっても影は変わるし、変化の無い全く同じ映像というのは、そもそもあり得ないのだ。


 結論。

 映像改竄は不可能だ。


 この問題をクリアしない限りは依然、完全犯罪である。

 だから考えるべきはアリバイじゃなく――――誰が協力者なら、この疑問が解けるのか。


「……ふむ」


 窓越しに海を見渡しながら、やはりゆったりと歩いていく俺。


 考え事をするなら歩くに限る。推理が行き詰まっているならせめて足は前進していたいという気持ち的な側面や、あるいは体を動かすことで脳の機能を促すみたいな科学的あれこれがあるのかもしれないが、今の俺はただ単純に、アンパンを食べた後の食後の運動という意味が強い。コンディションを整えたらそりゃ、気分は良くなる。脳も冴える気がしてくる。


 閑話休題。

 監視カメラの問題だ。冴えた脳で考えろ。


 たとえば、スノウならばクリアできるだろうか?


 彼女の人智を超えた素早さがあれば……監視カメラの性能を超えたスピードで動けば、カメラに映ることなく犯行が可能かもしれない。


「アホか」


 できるか。

 脳が冴えたというのは嘘だ。散歩は所詮、散歩らしい。一瞬でもこんな推理を考慮する自分を自分でぶん殴りたい。


 1フレーム以内にドアを開けて秘宝を盗んで脱出してドアを閉める。さしもの〝盗足怪鳥〟とはいえ、無理なものは無理だ。これができるなら俺はいよいよあいつを人間と認めない。


 たかが監視カメラだ、特別高性能というわけじゃない。映像もある程度はガビガビだ。映っているドレミの表情を判別しにくい程度には。だからといって、とはいえ、1フレームはコンマの世界。仮に1フレーム1秒だったとしてもおよそ不可能だろう。


 何より、そうだ。

 協力者の正体がスノウだったとしても、スノウが盗んだわけじゃない。実行犯はあくまで〝怪盗Missing〟なのだ。スノウを超える身体能力オバケがいるとも到底思えないし、いたとしても前述の通り、無理だと断じていい。


 つまり――――スノウの協力があっても、監視カメラ問題はクリアできない。


 容疑者からスノウは除外。

 続いて、ミラージュについて考えてみようか。


 ミラージュなら……できそうじゃないか? まず俺はそう思った。

 誰がどうあがいても、映像記録を改竄することはできない。が、監視カメラそのものを欺くことはできるんじゃないか?


 トリックアート。騙し絵。あるいは俺のアンパンを盗んだときのように、脳が騙されるレベルの写実。レンズの前に絵を設置すれば、その映像を見てる人は当然、騙される。


 一番シンプルなのは、部屋全体の絵をレンズの前に設置することだ。室内で何が起ころうと、映像に映っているのは何の異常も無い静かな部屋だけ、という具合になる。


 ミラージュの腕なら、一部だけということも可能だろう。たとえば、〝トラックで隠れた床や壁〟の部分を絵にして、その絵でトラックを隠すようにレンズ前に設置すれば、トラックの無い部屋の完成だ。本当はあるけど、映像で見たら無いように見える、トリックアートならぬトリックムービー。トラックの部分以外は本物の映像だから、部屋に入ってきたドレミの姿も当然映っており、真実味が増す。


 まあ、映像でトラックを消したからとて何の意味があるんだという話だが。あくまで一例だ。要は、ミラージュは自由自在なのだ。あるものを無いように見せるのも、無いものをあるように見せるのも。


 その能力を使って……使っても、


「……無理か」


 無理だった。

 あるものを無いように見せようと、無いものをあるように見せようと、静止画では〝流動的な影〟を作り出せない。


 つまり、ミラージュの協力があっても、監視カメラ問題はクリアできない。

 容疑者からミラージュは除外だ。


 怪盗結社〝ファントム・ガールズ〟、残るメンバーはあと2人。――――この女なら、この不可能犯罪を可能にできるだろうか?


 廊下の途中で歩みを止め、俺はその部屋のインターホンを鳴らす。

 俺の視界を占領する、金属製の巨大な扉。まるでSF。いかにもな研究所を思わせる……いや、『まるで』も『思わせる』も無いな。例えでも何でもない、印象そのままその通りだ。


 怪盗セフィラ。


 組織が誇る化学博士である彼女の、ここは研究室だった。


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