第9話:呪いのフラッシュバック
あの男、サミュエルの言葉が頭から離れない。
「その力、どう使うかはお前次第だ」
答えなんて、すぐには見つからなかった。だから俺は、まず出来ることから始めることにした。
ゼウス社への復讐。そして、兄貴の本当の治療法。
隠れ家のコンソールに向かい、俺は情報収集を開始した。
だが。
ディスプレイが放つ青白い光が、網膜を焼いた瞬間――フラッシュバックが来た。
『いたい、いたい、いたい』
『ママにあいたい』
空っぽの瞳をした子供たちの顔が、画面いっぱいに重なって見える。
「――ッ!」
俺は椅子から転げ落ち、呼吸が浅くなるのを感じた。ダメだ。街のネオンサインも、この部屋のLEDライトも、すべてが地獄への入り口に見える。
何かを作らなければ。何かに没頭しなければ、この罪悪感に押し潰される。
ワークスペースに向かい、ガラクタの山に手を伸ばす。
だが、指が震えて、言うことを聞かない。
この手で、また誰かを不幸にするのか…?
プロメテウス・コアが植え付けた呪いが、俺の魂を内側から蝕んでいた。俺の全てだったはずの魔改造が、今は恐怖の対象でしかなかった。
◇
「ケイ、少し休んだら?」
俺の異変に気づいたレイナが、心配そうに声をかけてくる。
その優しさが、今はナイフのように鋭く突き刺さる。
あんたには分からない。あんたに、俺のこの地獄が分かってたまるか。
「……ほっといてくれ!」
俺は、彼女を突き放してしまった。
レイナは傷ついた顔で、何かを言いかけて、やめた。俺たちの間に、重く気まずい空気が流れる。
俺は隠れ家を飛び出し、屋上へと続く錆びた梯子を登った。
冷たい酸性雨が、容赦なく体を叩く。眼下に広がるネオ・コンプトンの街は、まるで巨大な電子回路の墓場のようだった。
俺はなんて無力なんだ。
兄貴一人救えず、大勢の子供を不幸にして、そして今もこうして雨に打たれることしかできない。
消えない罪悪感が、俺を苛んでいた。
◇
絶望の底で、俺の心に黒い感情が芽生えた。
違う。無力なんじゃない。
そうだ、力が足りなかったからだ。
ゼウスも、企業の連中も、このクソみたいな世界も、全部ねじ伏せるほどの力がなかったからだ。
もっと。もっとだ。
誰にも文句を言わせない、圧倒的な力が手に入れば!
俺は屋上から駆け下り、再びワークスペースに向かう。
今度はもう、指は震えなかった。
俺が手に取ったのは、解体した軍事用ドローンの残骸。
目的は一つ。最強の、戦闘用ドローンを作り上げる。
俺の怒りに、脳内のプロメテウス・コアが喜ぶように囁きかけた。
『その怒りこそがお前の力になる』
そうだろ。
俺の瞳に、復讐心と焦燥の入り混じった、危うい光が宿る。
俺の魔改造は、ここから、さらに危険で強力なものへと変貌していく。
もう、戻れない。
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