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第8話:ヘルメスの配達人

日常が戻ってきた。だが、俺の中の何かが、根本的に変わってしまった。

ワークスペースに積まれたガラクタの山。以前は宝の山に見えたそれが、今では呪いの道具のようにしか見えない。

この手で、また何かを生み出してしまったら?

その力が、また誰かを不幸にしたら?


俺はただ、ガラクタを前に座り込んでいるだけだった。

創造への純粋な喜びは、もう思い出せない。

この力は、一体何のためにあるんだ。



あてもなく、街を歩いていた。

人の波、ネオンの光、騒音。その全てが、今の俺にはひどく遠い世界のものに感じられた。


雑踏に満ちた交差点で、信号を待っていた時だった。

「よう、坊主。いい顔するようになったじゃねえか」


不意に、親しげな声が隣から降ってきた。

見ると、人の良さそうな笑顔を浮かべた男が立っていた。ヘルメス・ロジスティクスの制服を着ている。だが、その佇まいは、そこらの配達人とは明らかに違っていた。全てを見透かすような、鋭い瞳をしている。


「……誰だ、あんた」

「俺か? 俺はサミュエル。サミュエル・マーチャント。しがない配達人さ」

男はそう言って、ニヤリと笑った。



サミュエルと名乗った男は、俺が何も言わないのに、核心を突いてきた。

「お前、ゼウス・パラダイスで、とんでもない地獄を潜ったらしいな」


心臓が、鷲掴みにされたように跳ねた。

こいつ、何者だ。なぜそれを知っている。


俺の警戒を面白がるように、サミュエルは続けた。

「俺も昔はそうだったぜ。手に入れた力に振り回されて、自分が何者かも分からなくなる。正義も悪も、ごちゃ混ぜになっていく」


その言葉は、まるで俺の心の中を覗いてきたかのように、正確だった。


「いいか、坊主。お前が手に入れたのは、そういう代物だ」

サミュエルは、俺の肩を軽く叩いた。

「その力、腐らせるか、世界をひっくり返すか。どう使うかはお前次第だ。だがな、坊主。どっちを選んでも、その先にあるのは別の地獄だぜ」


信号が青に変わる。


「じゃあな。またどこかで会うだろ」

サミュエルはそう言い残し、人混みの中へ飄々と消えていった。


俺は、その場に立ち尽くしていた。

別の地獄。

彼の言葉が、頭の中で何度も反響する。


俺は、この力をどう使うべきなんだ?

ただ兄貴を救うため。それだけだったはずの世界が、知らず知らずのうちに、もっと巨大で、もっと残酷な渦の中へと俺を引きずり込んでいた。

ネオ・コンプトンの空は、相変わらず曇っていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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