表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/24

第6話:プロメテウスの呪い

俺は、兄貴の苦しむ顔を思い出していた。

あの笑顔をもう一度見るためなら、悪魔にだって魂を売る。そう決めたはずだった。

俺は震える手で、プロメテウス・コアを中央の装置にセットした。


カチリ、と硬質な音が響く。

その瞬間、研究室の白い壁が、音もなく透明なガラスに変わった。


ガラスの向こう側は、巨大なプレイルームだった。

大勢の子供たちが、無邪気に笑い、走り回っている。その光景に、俺は一瞬、息を呑んだ。

なんだ、これは。


次の瞬間、装置が起動した。

低く、不快な駆動音が鳴り響き、子供たちが一斉に動きを止める。

そして、叫び始めた。


「あああああっ!」

「いや、やめて!」


子供たちの体から、無数の光の粒子が立ち上る。

「楽しい」「嬉しい」「大好き」――そんな温かい感情が、まるで魂を抜き取るように、中央の装置へと吸い上げられていく。

光の奔流は、装置の中で急速に冷却され、圧縮され――俺がよく知る、青白い結晶体へと姿を変えた。


ブリス・チップ。


これが、幸福の収穫。


感情を根こそぎ奪われた子供たちは、糸の切れた人形のように、次々とその場に崩れ落ちていった。



その瞳から、光は永遠に失われていた。



「……ぉえ……ッ」


俺は、その場で胃の中身をぶちまけた。



俺が届けたこのコアが、引き金を引いた。俺が、この子たちを殺した。


違う、殺してない。でも、同じことだ。

脳が理解を拒絶する。だが、流れ込んでくる。子供たちの最後の感情が、濁流になって俺の精神を蹂躙する。


『ママにあいたい』

『たのしかったよ』

『いたい、いたい、いたい』


「う……ああああああああああッ!」


俺の絶叫に、掌のコアが共鳴した。

青白い光が、俺の罪悪感を喰らうように激しく明滅する。


『これは君の罪だ』



脳に直接響く声。


『お前が彼らを殺したのだ』


違う! 俺は、兄貴を助けたかっただけで――!


『言い訳はするな、創造主。お前は選んだ。この地獄を、お前が望んだのだ』


声が、脳のシナプスに、その罪を焼き付けていく。

プロメテウスの呪い。

もう、逃れることはできない。



ジリリリリリリ!!

けたたましい警報が、地獄に鳴り響いた。

研究室に、ゼウス社の武装した警備部隊が雪崩れ込んでくる。


だが、俺はもう動けなかった。



足が、指一本すら、言うことを聞かない。壊れたおもちゃのように、ただ床にへたり込んでいるだけだった。

終わった。ここで、何もかも。


警備兵の一人が、俺に銃口を向けた。

その、刹那。


――ゴウッ!!!


研究室の壁が、轟音と共に爆砕した。

コンクリートの破片をまき散らしながら、そこに飛び込んできたのは、一台の大型バイク。重武装に魔改造された、黒い獣。


キーッと甲高いブレーキ音を立てて停止したバイクから、ライダーがヘルメットを脱ぐ。

汗と埃にまみれた、見慣れた顔。


「遅くなってごめん、ケイ!」


レイナだった。


彼女は追っ手の銃弾をものともせず、俺の手を掴んでバイクの後ろに引きずり乗せる。


「しっかり掴まってなさい!」


エンジンが咆哮を上げる。

俺たちを乗せた黒い獣は、地獄からの脱出路を切り拓くように、再び闇の中へと加速していった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、

ブックマークや、下にある☆☆☆☆☆から評価をいただけると、大変励みになります。

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ