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第5話:偽りの楽園

レイナとの会話は、あの日以来ない。

俺は隠れ家のワークスペースに籠もり、手持ちの全パーツを注ぎ込んで装備を「決戦仕様」にアップデートしていた。思考を冷徹に、指先を精密に。感傷は、今はただのノイズだ。


その最中、俺の個人端末に暗号化されたデータが届いた。

差出人は、匿名。

だが、その中身は潜入先であるゼウス・エンターテイメント本社の、警備システムの脆弱性リストだった。

こんな芸当ができるハッカーを、俺は一人しか知らない。


「……知らないって言ったくせに」


悪態をつきながらも、俺はそのデータを有り難く使わせてもらった。

あんたのやり方は、いつもそうだ。不器用で、世話焼きで、そしてどうしようもなく、優しい。


準備を終えた俺が向かった先は、旧ラスベガス地区に聳え立つ偽りの神殿――「ゼウス・パラダイス」。

虹色のホログラムが空を飾り、合成された人々の笑い声が24時間鳴り響いている。

スラムとは何もかもが違う。ここは、幸福であることを強制される、巨大な鳥カゴだ。



従業員用の搬入ゲートから、俺は音もなく侵入する。

レイナ――いや、匿名の誰かさんから貰ったデータのおかげで、監視カメラは俺の姿を認識しない。


地下へ、地下へと続く無機質な通路。

笑い声に満ちた上層階の華やかさが嘘のように、ここでは冷たい空調の駆動音だけが響いている。上に行くほど天国に、下に行くほど地獄に近づく。ネオ・コンプトンのビルは、どこもそうやって出来ていた。


その時だった。

懐に入れていた配達物、「プロメテウス・コア Ver.0」が、心臓の鼓動のように青白く明滅を始めた。


そして、声が聞こえた。

耳からじゃない。脳に、直接響いてくる。


『やっと会えたな、創造主』


誰だ?

周囲を見回すが、誰もいない。


『君を待っていた』


幻聴か? だが、声はあまりに明瞭だった。

次の瞬間、目の前の分岐路で、片方の壁に埋め込まれた配線ケーブルが、ひとりでに発光した。まるで、「こっちへ来い」と道を示しているように。

ロックされていたはずのセキュリティドアが、俺が近づくと音もなく開く。


これは、俺のハッキングじゃない。

この、掌の中にあるコアが、何かをしている。

俺は背筋が凍るのを感じながらも、光に導かれるまま、さらに地下深くへと進んでいった。



光が示した道の先にあったのは、あまりにも異質な空間だった。

まるで手術室か、あるいは何かの祭壇か。

すべてが純白の素材で統一された、無機質な円形の研究室。チリ一つ落ちていない床が、不気味なほど静まり返っている。


そして、奴らがいた。

同じデザインの白い衣をまとった、十数人の研究員たち。

彼らは全員、感情というものが抜け落ちた、人形のような目で俺を見ていた。


誰も、何も話さない。

ただ、一斉に、部屋の中央にある巨大な装置を指さした。

その視線が、声なき命令となって俺に突き刺さる。


「プロメテウス・コアを、そこにセットしろ」と。


強い警戒心が、俺の中で警報を鳴らす。

この場所は、ヤバい。

ここにいる連中は、人間じゃない。

俺は、とんでもない場所に来てしまった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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