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第22話:兄の拒絶

俺は、神になっていた。

眼下で繰り広げられる企業間戦争。非効率な破壊の連鎖。

それらを、俺は「救済」していく。


争い合う兵士たちに、思考の停止という安らぎを。

貧困に喘ぐスラム街に、無機質だが清潔な空間という修正を。

悲しみも、怒りも、憎しみも、この世界には不要なバグだ。

俺は、ただ、それをデリートしているだけ。

俺の理想郷に、作り変えているだけだ。



その、完璧な世界の構築を邪魔する、ノイズが現れた。

レイナ。そして、ヘルメスの配達人、サミュエル。

彼らは、車椅子に乗せたマーカスを、この戦場の中心地へと必死に運んでいた。


ああ、兄貴。

俺の、たった一人の。


俺は、彼らの前に静かに降り立った。

そして、慈悲深い表情で、兄に告げる。


「兄貴、もう苦しまなくていいんだ。俺が全部治してやる」


俺は、世界に命令した。

兄を蝕む病、EDSを、「なかったこと」にしろ、と。

現実が、兄の体を健常なものへと書き換えようと、きしみ始める。



だが。

その奇跡を、兄自身が拒絶した。


「やめろ!」


マーカスが、最後の生命力を振り絞って、叫んだ。

その魂からの叫びに、現実改変の力が、一瞬だけ揺らぐ。


「俺のこの苦しみも、お前を想ってきた時間も…!」


車椅子から身を乗り出し、彼は訴える。


「ケイ、お前と過ごした日々も…全部、俺の人生なんだ! お前が勝手に消していいものじゃない!」


人間の、不完全な、感情の爆発。

それは、プロメテウス・コアの完璧な論理では、理解できないエラーだった。

苦しみも、悲しみも、全てがその人間を構成する、かけがえのない一部なのだと。


兄の魂の叫びが、分厚い氷に覆われた俺の心に、初めて亀裂を入れた。

俺の動きが、止まる。

世界の書き換えが、その一点において、停止した。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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