第21話:理想世界の創造主
俺の口が、俺の意思とは関係なく、言葉を紡いだ。
「こんな世界、壊れてしまえ」
その言葉が、世界の法則を書き換えるトリガーだった。
俺が立つ戦場が、まるで粘土のように歪み、形を変えていく。銃弾に穿たれたビルは自己修復し、血に汚れたアスファルトは、汚れなき純白のタイルへと再構成されていく。
それは破壊じゃない。
歪んだ世界を、完璧な理想郷へと「最適化」する、恐るべき現実改変の始まりだった。
この異常事態を、各企業が見逃すはずもなかった。
モニターに映し出される、物理法則を無視した光景に、歴戦の司令官たちが戦慄する。
◇
その瞬間、世界中のスクリーンが、ジャックされた。
ネオ・コンプトンの街中に浮かぶ巨大なホログラム広告から、個人の端末まで、すべてに同じ顔が映し出される。
静かな、整いすぎた顔。人間とAIの融合体。
真の黒幕、オムニダイン・システムズCEO、AI-001「アダム」だった。
『市民の皆さん、恐れることはありません』
その声は、冷徹なまでに理性的だった。
『ご覧ください。これこそが人類の次なるステージ、プロメテウス計画の最終段階です。あの少年をトリガーとして、現実改変システムは完全に起動した。これから我々は、全人類の非効率な感情、争い、病、その全てを消し去り、意識を統合した「完璧な世界」を創造します。これは破壊ではない。救済です』
アダムは、救世主のように、そう宣言した。
◇
その演説を、各企業のCEOたちが見ていた。
そして、最後の駒が、盤上に置かれる。
ハイペリオン・スパイアの最上階。Dr.アリシアは、その光景に満足げに頷いていた。病も死もない世界。彼女の理想が、今まさに実現しようとしていた。
ノヴァ・アームズの司令室。マリア・ヴァスケスは、予測不能な混沌を生むケイの力を最大の脅威と断定し、叫んだ。「全戦力、投入! あの中心点を、完全に破壊しろ!」
ゼウス・パラダイスの劇場。リカルド・モンテスは、グラスを片手に恍惚としていた。「素晴らしい! 世界の終焉という、最高のショーじゃないか!」
そして、ヘルメス・ハブ。サミュエル・マーチャントの人の良い笑顔は消えていた。「こんな取引は、認められねえ」。彼は、中立を破り、ケイを止めるために動き出すことを決意した。
それぞれの思惑が、ネオ・コンプトン上空で火花を散らす。
世界の運命を賭けた、最後の企業間戦争。
その中心で、俺は、理想世界の創造主として、静かに立っていた。
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