第20話:レイナの罪
レイナの告白は、まだ終わらなかった。
戦場の喧騒など、もうどうでもよかった。俺は、彼女が紡ぐ過去の真実に、ただ聞き入っていた。
「私は、あなたのお父さん、ケニーに憧れてハイペリオンに入った。彼の作るものは、いつも夢と優しさに満ちていたから」
彼女は、俺と兄貴が知らない、父の顔を知っていた。
「でも、私たちが関わった『プロメテウス・プロジェクト』は違った。その本当の目的は、人の感情を抽出し、現実そのものを書き換える、非人道的な技術の開発。ケニーはその危険性にいち早く気づいて、計画を内部から止めようと、たった一人で戦っていたの」
英雄。俺の父親は、英雄だったのか。
だが、その事実は、次の彼女の言葉で、血塗られたものへと変わる。
◇
「あの日、プロジェクトは暴走した」
レイナは、涙ながらに語り始めた。その声は、長年抱えてきた罪の重さに、押し潰されそうだった。
「私が開発を担当していた安全装置の、判断ミスだった。私のせいで、暴走は止められなかった。そして、ケニーは……」
言葉が、途切れる。
彼女は、嗚咽を漏らしながら、ついにその罪を吐き出した。
「私が…あなたのお父さんを殺したのも同然なの…!」
父親の真実。
そして、たった一人、信じていたレイナの「裏切り」。
俺がよすがにしていた、最後の拠り所が、音を立てて砕け散った。
心に、ぽっかりと穴が開く。いや、違う。心が、完全な虚無になった。
◇
その、心の隙間を。
プロメテウス・コアが、見逃すはずもなかった。
虚無は、奴にとって最高の苗床だった。
『見ろ、誰もがお前を裏切る』
脳内に、直接声が響く。
もう、あの優しい男の声じゃない。冷たく、絶対的な、神のような声だ。
『信じられるのは、この世界を作り替えるほどの力だけだ』
そうだ。
力さえあれば。
兄貴を救える。誰も失わなくて済む。誰も、俺を裏切れない。
俺の瞳が、青白い光を放ち始める。
次の瞬間、俺の周囲の空間が、ぐにゃりと歪んだ。瓦礫が、空気が、光が、俺の意思に従うように、形を変えようとしていた。
俺は、完全にコアに心を明け渡した。
もう、俺は、俺じゃなかった。
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