第17話:砕かれた絆
隠れ家に戻った途端、俺たちの間に溜まっていた感情が爆発した。
「なんで邪魔するんだ!」
「あなたを死なせたくないからよ!」
「俺がどうなろうとあんたには関係ないだろ!」
「関係なくなんかない!」
互いの正義が、刃物のように相手を切りつける。もう、彼女の言葉は俺を苛立たせるだけだった。兄を救う唯一の蜘蛛の糸を、断ち切ったのはお前だ。
「もうあんたは関係ない。俺一人でやる」
俺は最低限の機材をバッグに詰め込み、彼女に背を向けた。
レイナの息を呑む音が、背中に突き刺さる。
俺は一度も振り返らず、隠れ家のドアを閉めた。
◇
俺は独りで、アリシアの要求に応え始めた。
彼女が指定する、企業の機密データが眠る危険地帯へ潜入する。失敗の許されないミッションの連続。
思考は、いつしか一点に収斂されていた。
どうすれば、最も効率的に兄を救えるか。
目的のためなら、手段は選ばない。
敵対するギャングのドローンを、躊躇なく撃ち落とす。行く手を阻む警備員を、ためらいなく無力化する。
ターゲットの回収を最優先し、人を傷つけることに、心が少しも痛まなくなった。
俺の口から、言葉が消えていく。感情が削げ落ちていく。
魔改造の代償。魂の摩耗。
俺は、兄を救うための、冷たい機械になりつつあった。
◇
打ちひしがれたレイナは、マーカスの部屋のドアをそっと開けた。
マーカスは、ベッドの上で静かに体を起こしていた。全てを、察しているようだった。
「レイナさん…ケイを、止めてくれ」
力なく、しかしはっきりとした口調で彼は言った。
「あいつは、俺のために、どんどん人間じゃなくなっていく…」
そして、彼は告白する。
レイナが、そして俺が決して知り得なかった、残酷な真実を。
「俺はもう…そんなに長くはないんだ。だから、あいつには…俺のために壊れるんじゃなく、普通の人生を送ってほしい」
兄の本当の願い。そして、残された時間の短さ。
最後の希望を求めてここに来たレイナは、最大の絶望を突きつけられた。
彼女は、その場に崩れ落ちるしかなかった。
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