第14話:猫カフェ計画
翌朝、俺は信じられない光景を目の当たりにした。
昨日助けた野良猫が、仲間を大量に連れてきやがった。
俺の隠れ家は、いつのまにか猫のたまり場になっていた。オイルと鉄屑の匂いしかしなかった無機質な空間が、やけに賑やかだ。
「あらあら、ケイ、見て。この子、私のお膝の上で寝ちゃったわ。かわいい…」
レイナは完全に骨抜きにされていた。
いつものクールなハッカーの顔はどこへやら、床に座り込んで猫を撫でまわし、とろけるような顔をしている。そのギャップが、なんだかおかしくて、俺は思わず吹き出してしまった。
◇
「しょうがねえな…」
どうせ追い出すこともできないなら、快適にしてやるか。
俺は、久しぶりに純粋な創作意欲に駆られた。誰かを傷つけるためでも、復讐するためでもない。ただ、目の前の毛むくじゃらの連中を、幸せにするための魔改造。
廃品のディスペンサーを改造して、定時になると餌が出てくる自動給餌器を。
壊れた監視ドローンを改造して、予測不能な動きで猫を翻弄する猫じゃらしロボットを。
温度センサーと空調を連動させて、猫たちが一番快適な室温を保つ全自動システムを。
夢中になって手を動かしていると、あの地獄の記憶が、不思議と薄らいでいく。
そうだ、俺はこれが好きだったんだ。
ガラクタに新しい命を吹き込み、誰かが喜んでくれる。その瞬間の、どうしようもない高揚感。
忘れていた、創造の喜びだった。
◇
完成した「猫カフェ」で、兄のマーカスも、穏やかな表情で猫と触れ合っていた。
彼が自分から何かに興味を示すなんて、本当に久しぶりのことだ。
猫じゃらしロボットを追いかける猫たちを見て、レイナが笑う。それを見て、兄貴も静かに微笑む。
俺たちの間には、束の間の、しかし確かな平和な時間が流れていた。
俺の技術で、みんなを幸せにできるんだ。
破壊なんかじゃない。俺が本当にやりたかったのは、こういうことなのかもしれない。
だが、夜が来て、街のネオンが隠れ家の窓を染める頃、俺は現実に引き戻される。
この穏やかな時間は、高価なブリス・チップが生み出す、かりそめの安定の上に成り立っている。
根本的な問題は、何一つ解決していない。
猫たちの寝息が響く静かな部屋で、俺は自分の無力さを、再び噛み締めるしかなかった。
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