第11話:偽りの芸術家
あのバカげた騒動で得た、束の間の安らぎ。だが、そんなもので俺の呪いが消えるわけじゃない。
俺は情報屋を使い、あの地獄の責任者の居場所を突き止めた。
ゼウス・エンターテイメントCEO、リカルド・「ショー」・モンテス。
奴は、ゼウス・パラダイスの最上階にある空中劇場にいる。
潜入の準備を整え、劇場の裏口に回る。だが、俺がハッキングを始める前に、重厚な扉が内側から開いた。
タキシード姿の男が、深々と頭を下げる。
「お待ちしておりました、ケイ様。ショー様がお待ちです」
罠だ。分かりきっている。
だが、招待されたんなら乗ってやる。俺は、覚悟を決めてその扉をくぐった。
◇
劇場の中は、目も眩むような豪奢な空間だった。だが、すべてが作り物めいていて、魂が感じられない。
舞台の中央で、一人の男が俺に背を向けて立っていた。
「来たかね! 我が新たなるスターよ!」
大げさな身振りで振り返った男、リカルド・モンテスは、心からの笑顔で俺を歓迎した。
「君の魔改造は、魂を揺さぶる最高のスペクタクルだ! あの警備網を突破するスリル、敵を翻弄するアクション! 実に素晴らしい!」
「ふざけるな。あんたのせいで、あの子供たちは…!」
「ああ、あの美しい犠牲かい?」
リカルドはうっとりと天を仰いだ。
「最高の芸術のためには、美しい犠牲が必要なのさ。彼らは、我々の壮大な物語のための、尊い礎となったのだよ」
悪びれる様子が、微塵もない。
俺の中で、怒りが沸点を超える。だが、リカルドは俺の燃え盛る感情すらも、楽しんでいるようだった。
「その目だ! 怒り、葛藤、復讐心…素晴らしい! 君は最高の『主人公』だ! その感情こそが、観客の心を掴んで離さない!」
こいつ、イカれてる。
俺の怒りも、苦しみも、こいつにとってはショーの小道具でしかない。俺は、こいつの掌の上で踊らされているピエロなのか。
その事実に、俺は戸惑いを隠せなかった。
◇
リカルドは、芝居がかった仕草で俺に近づき、憐れむように言った。
「だが残念だ。君のその力では、君が望む『ハッピーエンド』…つまり、お兄さんの救済という陳腐な物語は描けない」
核心を突かれ、俺は言葉を失う。
「だが、君が真の奇跡を望むのなら、次の舞台を用意してある」
リカルドは、ウィンクしてみせた。
「ハイペリオン・スパイアに行くといい。そこの主演女優、Dr.アリシアに会うんだ。彼女なら、君の物語を次のステージに進めてくれるだろう」
それは、復讐相手からの、親切なアドバイスのようだった。
いや、違う。
これは、こいつが描く新しい脚本だ。俺をさらに危険な舞台へと誘う、悪魔の脚本。
俺は、リカルドに一太刀浴びせることすらできず、ただ、次の目的地へのチケットを握らされている。
偽りの芸術家が作り出す、終わらないショー。
その主役から、俺はもう降りることができなかった。
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