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第10話:感情冷蔵庫、暴走

怒りは、最高のブースターだ。

俺は寝食も忘れ、戦闘用ドローンの魔改造に没頭していた。隠れ家の全電力をドローンの出力に回し、理論限界を超えるチューニングを施していく。


その時だった。

バチッ! という嫌な音と共に、部屋の隅に置いてあった自作の「記憶冷蔵庫」から白煙が上がった。


「やべっ」


昨夜の無理な改造で、電力系統に過負荷がかかったんだ。 冷蔵庫はショートし、保存していた様々な感情データ――近所のガラクタから集めた、持ち主不明の記憶の残滓――が、Wi-Fiネットワークを通じて周囲に垂れ流され始めた。


直後、隠れ家の外から奇妙な声が聞こえ始めた。



「ああ、なんてこと! なんて愛らしいのかしら!」


窓から外を覗くと、信じられない光景が広がっていた。

いつも家賃の取り立てで怒鳴り散らしている鬼のような大家さんが、薄汚れた野良猫を抱きしめて号泣している。 「子犬へのあふれる愛情」のデータにでも感染したらしい。


混乱は、それだけじゃなかった。

路地の向こうでは、怖い顔で有名な闇医者が、道端に咲いた雑草にうっとりと語りかけている。



「おお、君のその儚げな佇まい…まるで、あの日の彼女のようだ…」

「初恋の甘酸っぱさ」のデータだな、あれは。


カオスだ。街の一部が、感情のごちゃ混ぜジュースみたいになっている。



原因は分かっている。俺のせいだ。

慌てて冷蔵庫を修理しようとすると、背後から声がした。


「べ、別に…あんたが困ってるからって、助けに来たわけじゃないんだからね!」


振り返ると、腕を組んでそっぽを向いたレイナが立っていた。 どうやら彼女は「思春期の反抗心」のデータにやられたらしい。


「勘違いしないでよね! たまたま通りかかっただけなんだから!」

「はいはい、分かったから手伝えよ」

「な、なんで私が…! し、仕方ないわね、今回だけよ!」


ツンケンしながらも、彼女の的確な指示のおかげで、修理は驚くほど早く進んだ。



「――よし、止まった!」


俺が最後の回路を繋ぎ直すと、冷蔵庫は沈黙した。

街の奇妙な騒ぎも、まるで何事もなかったかのように収まっている。大家さんは我に返り、「なんで私、猫なんか抱いてるのよ!」とパニックになっていた。


レイナも正気に戻り、じろりと俺を睨みつけた。

「だから言ったでしょ、爆発しないやつにしてって!」

いつもの彼女だ。俺はなぜか、少しだけホッとした。


怒られながら、俺は窓の外を見ていた。

騒動の後、人々は何が起きたか分からず首を傾げながらも、どこか楽しそうに笑い合っている。張り詰めていた街の空気が、少しだけ和らいでいた。


それを見ていたら、自然と口元が緩んだ。


「俺の失敗作も、たまには役に立つのかもな」


「え、今なんか言った?」

「別に」


そう答える俺の顔は、きっと、あの地獄を見て以来、初めて少しだけ笑っていたんだと思う。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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