捕囚
猫人族の残党も騎士団たちの活躍で直ぐに片が付いた。
盗賊を捕らえ占領地に引き上げるつもりだが少し困ったことが起きた。
人数が多過ぎるのである。
捕らえた盗賊の数は凡そ3000人だが
その者たちを占領地まで運ぶ方法が思い付かない。
ゲートを開き送り込めば良いのだろうが
正直あまりよそ者にゲートの存在を知られたくない。
出来れば使いたくは無いのだが・・・
何か良い方法は無いか考えこんでいると大福たちが声をかけてきた。
「盗賊たちは食べ尽くしましたので歩かせるのは困難です」
「どうしましょうか?」
「ここで処分しましょうか?」
「ひと思いにズバっと、殺っときます?」
なんと・・(もう飽きたので殺っちゃいましょう!)
まるで壊れた玩具には用はないと言わんばかりだ。
周囲をよく見るとサキュバスたちは殺気立っている。
精気を吸収し過ぎて狂暴化してしまった様だ。
さすがサキュバス、本性は恐ろしい魔族だ。
「まあ、少し落ち着こうか・・・
取り敢えず、占領地まで運ぶことを考えないとね」
下手に宥めると逆効果になりそうなので流すことにした。
「「「「は~ぃ・・・」」」」
つまらなそうな顔をするのはお止しなさいと言いたいが言わない。
仕方がないがゲートを開く以外に運ぶ手段は無さそうだが
幸いにも盗賊の殆どは気を失っている。
起きている者もいるがそれらも魔法で眠らせれば良いだろう。
「気を失っていない盗賊たちを集めてくれ。
そいつらを魔法で眠らせるから」
大福たちに頼んで盗賊たちを集めた。
「おら、来い!」
「私たちの餌食になりたいのか!」
「おら、命を潰されたいのか!」
「急げ、グズグズするな!」
みんなの殺気が凄いが気にしないことにして
盗賊たちを魔法で眠らせた。
まあ本当は眠ったわけではなく気絶したのだがそれは秘密だ。
無事に占領地まで盗賊を運び終わった。
輸送の際に盗賊たちは起きることは無く未だに気を失ったままだ。
3000人もの盗賊を収監する留置所はこの占領地にはない。
そこで急いで街の離れに檻を作りそこに盗賊を閉じ込め
順に取り調べを行うことにした。
怪我と言うか潰された盗賊たちはボナディアに蘇生してもらい
犯罪歴に応じアグラットによるお仕置きをうけることになる。
お仕置きだけで済めば良いのだが悪質な者は牢獄に送る手はずだ。
盗賊を取り調べるのは騎士団たち。
彼女たちの恐ろしさを身に染みて感じた者は
素直に白状するしかない。
白を切る者にはディアナが拷問にかけるはずだ。
それでもダメならアグラットが手薬練を引いて待ち受けている。
盗賊にかける温情は無い、と言いたいが
アグラットまで回された盗賊には少し哀れに思う。
素直に白状することを祈るばかりだ。
盗賊の親玉である大将が目を覚ました。
この者は俺自身が取り調べを行うことにしているので早速会いに行く。
「気分はどうだ? 大将」
少しまだ呆けているのか目は虚ろな状態だ。
「こ、ここは何処だ?
どうして俺はこんな所に・・」
自分の置かれている状況がまだ把握できていないのだろう。
意識がまだ朦朧としているが正気に戻るまで待つつもりはない。
「よう、大将、アンタ俺に伸されたの覚えてるか?」
俺に打ち負かされここに連れられたことすら覚えていない。
「ああ~、何だと?
俺が負けただと・・・」
無い頭を捻り憶え返そうとしているようだ。
「・・・あっ、てめえ・・卑怯な手を使いやがって!」
「卑怯って・・何言ってんだよアンタ・・
一騎打ちで俺に殴られ直ぐ気を失ったくせに」
「殴っただと? この俺が殴られた?・・・
う、嘘を言うな、適当に誤魔化そうってつもりか!
女に魔法を使わせたんだろうが!!!」
自分が魔族の男に負けたことが信じられないという。
「あのな、大将、アンタは猫の中じゃ強いのかもしれないが
高が知れてるって分かんないかな?」
「ふ、ふざけんな、大鬼族ならともかく
お前ごときに負ける俺じゃなねえ!」
大鬼族の身体能力の高さは知っている様だ。
「バルバロスって知っている?」
「ああ、よく知ってるぜ、あいつにはそのうち俺が勝つつもりだ!」
「そのうちって・・あいつより弱いんだろ?」
「今はまだ奴に花を持たせているだけだ。
近いうちには俺が勝つ、ぜってぇだ!」
「あのさ、バルバロスより俺の方が強いんだけど・・
それすら分からない、ってか・・気付かないの?」
その様な会話の中、当の本人であるバルバロスが占領地にやって来た。
彼には盗賊たちの牢獄までの移送を依頼している。
「ノーヴ様、ご命令に従いバルバロス到着いたしました!」
相変わらずのデカい声で挨拶をする。
「ああ、ご苦労様、盗賊たちの移送をしてもらうから」
いつも面倒をかけて申し訳ないと思う。
この礼は必ずいつかするからと思ったのは秘密だ。
「おや、こやつ・・盗賊の親玉ですか?
確か見たことがある様な・・・」
そう言われ顔を背ける盗賊の親玉だがバルバロスは思い出したようだ。
「思い出しました、こやつ、猫人族のドラムスです!」
バルバロスは傭兵時代にドラムスと矛を交えたことがあると言う。
「交えたと申しますか、こやつ、一当てすると一斉に軍を引いたので
戦いになったと言うかならなかったと言うか・・・」
ドラムスは敵方の将として一軍を率いバルバロスに戦いを挑み
戦況が不利と見ると急いで戦線を離脱したらしい。
「逃げ足だけは一流の将軍と言っても過言ではありますまい」
何と不名誉な一流だろうと思ったのは秘密だ。
いや、敗戦を瞬時に悟り
兵を失うまいとしたその行動は正に良将と言える。
「いえ、兵をそのまま残して自分だけ逃げて行ったのです」
・・・・何も言えないと思ったのは秘密だ。
「あのさバルバロス・・こいつ、俺が弱いって思ってるんだよね」
さすがのバルバロスもその冗談は笑えないと少し真顔になる。
「まさかそのような事はありますまい。
仮にも一軍の将、相手の強弱も量りかねるなど・・」
「何だ、黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって・・
こんな小僧より俺の方が弱いってか!!!」
小者扱いされて怒ったのかドラムスが声を荒げる。
「なあドラムスよ、おぬし、ノーヴ様の強さが分からぬのか?
哀れな奴よ・・・」
「な、何だと・・俺が哀れだと・・
やい、バルバロス、この小僧にいくらで買収された?
てめえが小僧に従うなんざ有り得ねえだろうが。
いくら出せばこっちに就くんだ?」
大鬼族は傭兵集団だ。
ドラムスは俺が彼らを雇い入れたと思い込んでいる。
「金銭では雇われてはおらんのだよ、ドラムス。
我々はノーヴ様に忠誠を誓ったのだ。
いくら積まれても貴様に就くことなどあり得ん!」
大鬼族は俺に恩義を感じ忠誠を誓ったのだ・・・たぶん。
行く当てもなく仕事の無い彼らに
居場所を提供したことに感謝しているのだ・・たぶん。
「う、嘘を言うな、嘘をよ!
てめえらが金銭以外で人に従うなんざ・・・
まっ、まさか、てめえ・・・」
「ああ、そうだ、俺はノーヴ様に負けた・・
一瞬だった・・吹っ飛ばされたんだ」
大鬼族は自分より弱者に従わない。
その様な習性を持ち合わしている。
俺がその事を知らなかったのは秘密だ。
さて、本格的な尋問の開始だ!!!




