出陣
猫人族問題が解決する見通しが立ったせいか
奥様たちは晴々とした表情でイゲンダー邸を後にした。
「旦那様、実は少し猫人族に探りを入れておりました。
許可も得ずこの様な事をしてしまい申し訳ございません」
ノアルが屋敷を出てすぐに謝罪するが
俺に気を使っての事なので咎めるつもりなど無い。
「ありがとう、ノアルにも気を使わせたようで申し訳なかった。
家に戻ってから聞くことにするよ」
奥様たちには色々と気を使わせてしまい申し訳なく思う。
「まあその~・・気を使わせて申し訳ない。
・・・・ありがとう」
思った以上に感謝を口にするのは照れるものだ。
奥様たちは何も言わず笑顔を見せてくれる。
いつもならアストレアの説教が始まっても仕方がないところだが
その彼女も何故か安心している様にも見える。
・・・後が怖いかもと思ったのは秘密だ。
自宅に戻りさっそく猫人族についての情報を聞いた。
彼らの集落も大猿や猿人のそれと遜色はない。
各地に村落を形成し狩りや採集で生計を立てている。
人口は一つの集落に500人程度で暮らし
その様な村が各地にある。
その中で最も大きい人口を抱える集落があるが
それでも1000人程度の集落だ。
種族的には猫人族だけで形成される村もあるが
複数の種族で生活を営んでいる集落もある。
種族的には猫人族以外では兎人族や少数だが狐狸族が暮らしている。
盗賊行為を働いた者は猫人族で構成されていた。
盗賊に加担した者は少ない時で300人前後
多い時では1000人を超えている。
この人数から察するに複数の村落から
ある程度の人数が集まっていると思われる。
「全部の村を回って盗賊を見つけ出すのは困難か・・」
「盗賊たちを一カ所に集めたら一斉捕縛が可能ではないでしょうか?」
ブラウの意見は尤もだが一カ所に集める策が思い浮かばない。
何か妙案はないか・・誰か妙案を思い付かないか・・
いや、これ位の事は自分で思い付かなければダメだ。
「私とブラウ様が騎士団を300人程度率いて
猫人族の領内へ侵入してみては如何でしょう?
こちらの人数が分かれば敵はその以上の人数で
取り囲もうとするのは必然です。
恐らく総出で出迎えるのではないかと思いますが」
アイラは自分たちが囮になるというがそれは却下だ。
奥様たちを危険な目に会わせるわけにはいかない。
「大丈夫でしょう、アイラさんにケイちゃん、それに私が先頭に立ちます。
騎士団を率いるのはディアナさんにルーシャさんたち。
中軸にはイトラさんにアストレアさん、
後方にアグラットとメルテが控える。
遊撃隊をノアルさんに率いさせる形を取れば万全だと思いますよ」
まるで一個師団を率いて戦争でも始めるのかの様だ。
「えっと・・・俺は?」
「自宅待機で警備をお願いします」
自宅警備員か!!!!
俺は引き籠りのニートじゃねえんだよ!
・・・ニートは否定できない。
・・・引き籠りは否定出来る・・と思う。
「ちょっと待ちな、 ボナディア!」
そうそう、何で俺が自宅警備なんだよ!
「何で私たちが後方なんだい!
逆じゃないか、アタシとメルテが先頭を切ってアンタが後方だろ!
攻撃力を考えなよ、アタシら二人で十分相手できる敵の数だ。
まったく・・耄碌しちまったのかい?」
アグラットが吠えまくるがボナディアはそれを笑顔で抑え込む。
「耄碌したのは貴方でしょ、アグラット。
魔女二人が集団率いて歩いたらどう思われます?
敵さん、逃げ出すに決まってるでしょ」
「それはアンタも同じさね、ボナディア。
自分が魔女って呼ばれてるの忘れたのかい?
・・・まったくさぁ~」
「ホントにもう・・忘れたのですか、アグラット。
私の本当の姿を」
「あっ・・・・」
今の容姿に慣れてしまって本来の姿を忘れかけていた。
3000年の時を過ごした大魔法使いがボナディアだ。
姿も名前も変えていることを失念するのも分かる気がする。
「私の今の姿を見知る者は貴方たちだけですよ。
誰も私が魔女だという事を知らないのですから。
私が先頭に立つ方が良いのです」
しかし先頭に立ち何をするつもりなのか分からない。
「アイラさんとブラウさんは敵も見知っているので
その存在を明らかにすべきです。
それに従者が側に控えるも当然と言えば当然。
何せブラウさんはアザリアの元国家元首代理ですから」
従者として何かするつもりなのか?
それとも何か策を弄するつもりなのか?
「いえ、単純に適材適所です。
私ならすぐに防御結界も張れますし
全方向に範囲魔法も行使できます。
それも相手を殺さない程度に微調整できます
確かにアグラットやメルテも同じことできますが
彼女たちは、その・・・
まだ若いので、つい殺ってしまう可能性があります」
なるほど、完全不殺という問題もあるのか。
別に相手がどうなろうと構わないと思ったのは秘密だ。
「旦那様・・・何をお考えでしょうか?」
アイラに思考を読まれたのか?
「別に・・今日の晩御飯は何かなって・・」
溜息をつくアイラだがボナディアの作戦の了承を得ようとする。
「俺の自宅待機以外は了承する」
奥様たちだけを危険な目に会わせるわけには行かない。
「俺も行く、これ決定ね」
奥様たちは誰も俺に意見は言わないが渋々了承した。
奥様たちの御出陣だ!!!




