意志
奥様たちと夕食を取り風呂に向かう。
立ち入り禁止区画に仮設自宅とアザリアから引き連れた騎士団の宿舎がある。
騎士団宿舎に立派な浴場も建てた。
「しかし何で俺の家の風呂にみんな入りに来るのかな・・」
「やはり露天の風呂を皆好むのでしょう」
確かに俺の家では庭に風呂があり解放感はある。
「でも周りに柵もあるし屋根もあるんだけど」
「それでも広々としてますので」
アイラは広く開放感がある風呂を好む。
それが騎士団に影響を与えているのかもしれない。
「まあ・・良いか、後で入る」
いつもなら俺を見かけると騎士団員たちに囲まれ
剥かれ風呂に放り込まれるのだが今日は見つかるも誰も何もしない。
今日の事を知って俺に気を使っているのか?
だったらいつも気を使って欲しいものだと思ったら・・・
誰も寄って来ないはずである。
アグラットが恐ろしい顔で騎士団員たちを睨んでいた。
騎士団員たちには少し気の毒にも思うが
たまには自分たちだけで入浴を楽しんで欲しい。
遅い時間になったが騎士団の皆も入浴を終えたので俺も風呂に入った。
かなり広い湯船にゆっくりと浸かる。
これも良いものである。
当然の如く奥様たちもいるが皆のんびりと入浴を楽しむ。
まさに家族だけでお風呂に入っているが
これが家族風呂の良さなのかと改めて実感した。
「家族だけで入るって良いもんだな」
奥様たちも同意見の様だ。
しかし騎士団へのサービスも欠かせない。
いつも家族だけでという訳にはいかない。
「家族だけの入浴日を設けても良いかもしれません」
アイラの意見に皆賛成のようだ。
「団員たちにも入浴順を決めましょう」
ディアナは一斉に騎士団が入浴しない様に取り決めるという。
「好きに入浴させて良いんじゃないか?」
俺としては彼女たちに風呂くらい好きにさせたいと思う。
家族だけの入浴タイムを設けるのだ。
それ以外は好きにさせてやりたい。
それに何か不都合があれば自分たちで何とかするくらいの分別はあると思う。
「問題があった時にだけ何か取り決めれば良いよ」
「では、その様に計らいます」
ディアナは何か心配そうに言うが
何も問題は無い・・・はずだ。
入浴を満喫した翌朝、イゲンダー卿の屋敷に足を運ぶが・・・
奥様たちも全員揃っての正に行幸だ。
大福たちが先導するように屋敷に向かうと
卿自らお出迎えの形を取った。
「昨日は御緩りとなされましたようで何よりでございます」
「昨日は御面倒をお掛けしてすみませんでした。
今日はもう大丈夫です」
イゲンダー卿の配慮に感謝の意を表し
早速昨日の件について話し合うことにした。
奥様たちは気を利かせたのか別室で控えている。
「早速ですが猫人族の書状について確認した事がありまして」
俺が切り出すとイゲンダー卿は歯切れが悪い。
「その件につきましては・・その・・」
ハッキリと物を言う彼にしては珍しいことだ。
「どうかされましたか?」
「それが、イトラ様からその件にノーヴ様を
関わらせるなと厳命がございまして」
「イトラが直接、卿に言ったのですか?」
「そうですが、それは奥方様たちの総意であると仰せになりまして」
「妻の総意だと言ったのですか?」
「左様でございます」
俺の様子がおかしいのはこの件があったからと判断したのだろうか?
猫人族とのトラブルが原因だと思われるのは心外だ。
俺の事を心配してくれるのは確かに有難く思うし感謝している。
常に俺を案じてくれる彼女たちは俺の宝物でもある。
その彼女たちのいう事を俺も聞くべきだ。
それも理解しているが・・・
「彼女たちのいう事は気にしないで頂きたいです」
「しかし、そういう訳にはいきません。
昨日の事もございますし暫くは養生された方がよろしいかと」
イゲンダー卿自身も俺の事を心配してくれている。
「ご心配して頂き有難うございます。
しかしもう大丈夫です・・とまでは言えませんが
この件を片付けないとゆっくり寛ぐことも出来そうにありませんから」
本来なら彼の申し出を受け入れる。
本音を言えば面倒事は引き受けたくはないのだ。
乗り掛かった舟という訳でもない。
しかし自分の妻を要求され黙って見ている事など出来ない。
二度とそう言う気を起こさせない事こそ重要だ。
「猫に分不相応な要求をしたことを後悔させないといけませんし」
「ね、猫人族を滅ぼされるおつもりなのですか?」
イゲンダー卿が驚く。
彼は俺が総ての猫人族を皆殺しにするとでも思ったのだろうか。
「はは・・猫を根絶やしにするとでも?」
「ち、違うのですか?」
「罰を与えるだけですよ。
殺してしまえばそれで終わりじゃないですか。
自分の行いを反省し一生後悔してもらわないと。
まあしかし、反省するかは分かりませんけどね。
後悔だけは一生させるつもりです」
イゲンダー卿は押し黙る。
これ以上何を言っても無駄であると気付いたようだ。
俺は別に向きになってこの件に首を突っ込んでいる訳ではない。
また使命感もない。
ただ自分がしたいからするだけだ。
「では、決して殺したりはなされないのですね?」
「それは・・・約束は出来ませんね。
相手次第です」
今まで感じた事のない自分がここにいる。
思考は同じなのだが何だか別の自分が
この件に携わっている様な気がする。
何だか生まれ変わったような気分だ。
「アグラット、聞いているんだろう?
今言った通りだ」
この場にいないはずのアグラットがいる様な気がしてその様に言う。
「何だい、旦那様・・・
気付いていたんだね」
観念したかのようにアグラットが答え部屋に入って来た。
「いや、気が付くというより・・
そんな気がしただけさ」
「気は変らないのかい?」
「そうだね、今回は俺がヤル」
俺の言葉を聞いたアグラットは青ざめるが同時に条件を出して来た。
「この件、みんなで・・家族でヤルよ」
その言葉に今度は俺が蒼褪める。
彼女から俺だけには絶対やらせないと強い意志を感じる。
妻にヤラせてなるものか!!!




