茶番
審理も最終局面を迎えヨコドリーの独壇場となった。
領民の無能を笑いエルフ族が如何に優れた種族か
まるで演説を聞いている様だ。
「ヨコドリー卿、失言を撤回しなさい。
誹謗中傷など断じて許しません。
エルフ族を誇示するのであれば尚更のことです」
「おっと失礼しました、イトラ様
事実だけを述べたつもりでしたが
お気に障られましたかな?
それとも魔族に御執心のあまり
事実を素直に見つめる事すら
お出来にならなくなられたのかもしれませんなぁ~」
嫌味たっぷりに事実を述べただけだと言う。
「実際そうではありませんか。
委任状を懇切丁寧に説明したにもかかわらず
己の不利益などの可能性に考えも及ばない民など
愚民としか言いようがない。
他者の言葉の持つ意味すら
表面のみ理解し深く考えもしない。
その様な愚か者は行政に携わるべきではないのだ。
それこそアザリアの国益を損なう根源であろう!」
アザリアの領民は思考という作業が出来ない。
その様な者は愚民以下であり
行政に携わるなどあってはならぬのだと重ねて言う。
「どうした、異論反論できやすまい!
私の行いは正しいのだ!
誰でも良いぞ、この私に意見できるなら言ってみろ!」
気持ち良さそうにヨコドリーは叫ぶ。
後ろに控えた被告人の貴族たちも得意気になってきた。
「そうだ、ヨコドリー伯爵は正しいぞ!」
「裁判を行うこと自体間違いだ!」
「この責任、誰がとるんだ?イトラ様か!」
「いや、足らない、軍総指令と警備隊総指令も責任取れ!」
「損害賠償してもらうぞ!」
「そうだ、一人につき大金貨100枚払え!」
「騎士団も解体し娼館にでも働かせてしまえ!
どうせサキュバスだろ、喜ぶぞ!
感謝されるかもしれんなぁ~」
調子に乗り過ぎだろあいつら・・・
最後に叫んだ奴は去勢確定だ。
「おい、その辺で黙れ!
うっせえぞ、馬鹿ども!!」
いい加減に辛抱できなくなってしまった。
「ウジ虫どもが、好き勝手ほざいてんじゃねえぞ!」
俺が吠えると貴族どもは押し黙るが
ヨコドリーだけは薄ら笑いを浮かべる。
「ふん、前の元首か・・・
やはり魔族、言葉使いがまるで野蛮人だ・・それに
また形勢不利になると暴力を振るい終わらせるつもりか?
この蛮族が!」
「おまえさぁ~、さっきから詐欺師の様な事を言ってて
よくもまあ恥ずかしくないもんだな」
口が悪いのは生まれつき・・じゃないか・・
元の世界からの土産の様なものだ。
「この私を詐欺師とは・・無礼だぞ!」
「無礼も何も事実じゃねえか。
この委任状、確かに有効だ・・だがな。
領民に委任を取り付ける際に何って言ってたんだ?
俺の決めた法令を撤回させる手段と説明したんだろうが。
撤回に応じなければ元首を辞任させるために
必要な措置なので認めろと言ってるよな?
つまりだ、俺が元首を降りた時点で契約も終了して
そのあとお前が何をしても契約違反にはならないと
いう事を最大限悪用しただけだろうが!」
ヨコドリーが集めた委任状には大きな抜け穴がある。
落とし穴と言っても良い。
領民には義務教育などの法制を撤回させるか
又撤回しない場合は元首の座から俺を引き摺り落とすと約束している。
契約の条項はこの一点、それに対しての委任状なのだ。
俺が元首を辞任した時点で効力は失っている。
それを恰も有効であると錯覚させ
自分たちの都合の良い法を次から次に成立させたのだ。
領民たちも委任状があるので仕方が無いと
諦めヨコドリーに従った。
何も考えず従った領民に非が無い訳でもない。
しかしヨコドリーはやり過ぎだ。
「し、知らん、私はそのような事は言ってはいないぞ!」
この期に及んでも白を切るが・・無駄な足掻きだ。
「だったら、証人を呼んでやるよ。
おい、ヤルーキ・フォン・ナイーゼはいるか?
いるなら前に出てこい」
ナイーゼはいる筈だが、隅に隠れて出てこようとしない。
「騎士ナイーゼ、さっさと出てこいや!!!」
蛆蛆して出てこない様なので大声を出した。
「ど、恫喝だ! この場に相応しくない発言だ。
撤回しろ!」
ヨコドリーは慌てて叫ぶ。
「恫喝だと・・お前、恫喝って知ってんのか?
知らねえだろう・・俺が教えてやんよ!」
俺はヨコドリーに近づき耳元で小さく囁いた。
「お前、しゃべんな、ぶっ殺すぞ・・」
彼は真っ蒼になり耳を塞いだ。
恐らく俺に殴られたことを思い出したのかもしれない。
小刻みに震えだしてもいる。
もう茶番は終わりだ!!!




