談判
戴冠式の翌日、併合を祝し祭が各地で行われた。
各地といっても実際に行われたのは
プトレ州とメネス州の新領地である。
因みに新国名は暫定的にアザリア連合国と決まった。
最終的には住民投票で決定しようと思っていることは秘密だ。
アザリア本領では特に祭りは行われなかった。
実際、俺にとっても領地が増えることは喜ばしい事ではない。
面倒が増えただけの事だ。
領民たちも別段何も変わらないのであまり興味もなさそうだ。
と言うより、新法に対する不安の方が大きく
お祝いどころではないと言ったところが本音なのかもしれない。
しかしこの併合は両州の領民にとっては非常に喜ばしい出来事だ。
併合によりアザリアの法が適応されることとなり
両州の領民にも生活保障制度や健康保険が実施されるからである。
この制度により領民の生活への不安が払拭されるが
身分の高い者には適応されない。
ここで言う身分の高い者とは元の世界で言うところの
官僚またはそれに該当する職種の者及び貴族である。
貴族の中には自分たちに適応されないことに
不満を持つ者もいるが
この制度を利用したければ
貴族の身分を捨てれば良いだけのことだ。
・・貴族のくせに文句言うなと言いたいのは秘密だ。
一部の強欲な者の文句など無視するに限る。
その様に思いながら新法の微調整などを行った。
クレームは日を増すとともに各地で増える一方だ。
やはり義務教育に関するクレームばかりだが
教育自体が無駄なものだと思い込んでいる者が
多過ぎることを残念に思う。
教育を受けた事が無い者に
教育の素晴らしさを説明するのは難しい。
しかし数年後にはなるが
結果を見て判断してもらえば済むことだ。
それでも教育が無駄だと言うことならば
その時に考えることにしよう。
まあ無駄に終わることは絶対に無いと
断言できるし問題はない・・・はずだ。
自分たちが教育を受けてなくても問題が無いから
子供にも教育は必要ないと言うが
その様な考えは受け入れ難い。
このクレームも放置で良いということにする。
新年度のスタートを間近に控え準備に追われていると
ある集団が本庁を訪れた。
「陛下にお取次ぎ願いたい。
会って直に談判させて頂く」
集団のリーダー格の男性は長身やや細めのハイエルフだ。
年齢は・・・30歳?いや40歳くらいか・・
たまたま手が空いていたと言う理由ではない。
アストレアに捕まって礼儀作法の授業を
受ける様に説得されていたところだった。
これ幸いと思い会いに行くが
当然の如く奥様勢揃いで集団と会う事になった。
「みんな、仕事の方はいいの?」
「集団と御面会でしたならば、こちらも威厳を示す為
人数を揃える必要がございますので」
面談とのことだったので応接室で会おうとしたら
人数が多過ぎるので会議室で会う事になった。
・・・確かにこれは多過ぎだなと思ったのは秘密だ。
面談に臨んだ者たちは30名以上いる。
全員エルフ族の貴族たちだ。
その中で最も長身の男性が俺に挨拶をするが・・
少しムカついた。
何か相手を見下している様な目線で俺を見る。
「お初にお目にかかる。
予はモラーウゼ・フォン・ヨコドーリ伯爵である。
本日は陛下に嘆願に参った所存。
必ずやお聞き入れ願いたい」
「何たる物言い・・無礼ですぞ!」
イトラがモラーウゼを叱りつけるが聞く耳持たぬ様だ。
「これは、イトラ様、ご機嫌麗しゅう。
本日、予はこの場にアザリア全領民の代表として
参上しております。
それなりの立場にて発言しておりますれば
それを無礼呼ばわりされるとは・・・
誠に遺憾ですな」
礼儀作法を重んじるエルフの貴族が放つ言葉であり
彼の言う事は間違っていないのだろう。
言葉使いに煩いイトラが黙ってしまった。
「いや、言葉使いなど構いませんよ。
と言うか礼儀に則った言葉使いなど
正しく相手に伝わらなければ意味を成しませんから」
「これは、さすがと言うべきですかな・・陛下。
正しく言葉を使うことが出来ぬと仰せになる。
ある意味、大したものでございますな・・」
言外に魔族の俺を言葉もうまく使えない野蛮な者と言いたげだ。
現に周りの連中が嘲笑を浮かべている。
「申し訳ない、俺自身が言葉を選ぶのを
好まない性格なので許してもらいたい」
俺の正直な気持ちだが語彙力が乏しいのも事実。
まあ、言葉遊びをするつもりも無いし
素直な意見を聞きたし述べたくもある。
・・・これは負け惜しみだなと思ったのは秘密だ。
言葉を学び語彙力を高めよう!!




