議論
夜の営みが終わる頃になってもケイたちは戻ってこなかった。
居候組の躾に手間取っているようだが恐らく徹底しているのだろう。
そこまで徹底しなくても良いのではと思ったのは秘密だ。
今日も昼から軍議が開かれるが
領民の代表は別室で陳情を述べてもらうか
請願書の提出をしてもらうことになる。
要望を出したからといって
それが受理され希望通りになるとは限らないが
出来るだけ希望に添う様に配慮したいとは思う。
軍議はお互いの主張を繰り返すのみで全く進展しない。
何ゆえに自己主張を繰り返し相手の意見を聞こうとはしないのか不思議だ。
軍議とは一種の国政会議だ。
その様な会議の場において自己主張を繰り返すだけと言うのは良くはない。
別に歩み寄れとは言わないが、
お互いの言い分をよく吟味し
欠点や利点を指摘したうえでの議論を交わすべきだと思う。
頭から相手を否定し打ち負かそうとするような行為は議論と言えない。
今日の会議もまるで口喧嘩だ。
殴り合いにならないだけマシかと思ったのは秘密だ。
正直、この様な会議など聞いていたくはない。
まるで子供の主張だ。
もしくは見識が凝り固まって
融通が全く利かなくなった頭のボケた者の主張だ。
この場にいる者はこの様な会議の経験が不足しているのだろう。
会議においては柔軟な思考が要求されるのだが
この世界の者には無理なのかもしれない。
聞くに堪えなくなって逃げ出そうかとも思うのだが
流石にそれは出来ない。
しかしこのままでは全く進展が見られないので
本当は皆に任せるつもりだったのだが
少し口出しをすることにした。
「はい、皆さん静かにして!
さっきから同じことの繰り返しだよね。
それは別に悪くはないのかもしれないけどさ・・・
何でお互いの言い分をちゃんと聞こうとしないの?」
攻め込むべきだ・・・反対!
守るべきだ・・・反対!
お互いに反対と述べるだけで理由も述べない。
反対するのならばその理由を述べるべきだ。
また代替案がある場合には
それをはっきりと述べるべきでもある。
これだけ長く話し合っているのに
お互いの代替案すら誰も述べようとしない。
ある意味思考の停止状態にあると言っても
過言ではないかもしれない。
「はい、そこ・・攻めるのに反対の理由は?」
「守る方が確実に敵を防げます」
「はい、次・・守るのに反対の理由は?」
「攻める方が確実に敵侵攻を防げます!」
先程からこれの繰り返しだ・・・聞くに堪えん!
「はい、何で守る方が確実なの?」
「はい、防御陣地を造ることで鉄壁の防衛戦線が出来るからです」
「次、何で攻める方が確実なの?」
「はい、敵戦力を撃破すれば攻めて来れないからです」
「ではみんなに聞くけど、攻めるのに賛成の人は?」
侵攻作戦を支持するアイラ。
防衛戦を支持する大福たち。
圧倒的に侵攻作戦を支持する者の方の意見が多いのだが
バルバロスが途中で防衛戦へ支持へと態度を変えた。
それぞれ侵攻と防衛の利点と欠点について考え始めたからだ。
それぞれの利点についての意見は出てはいるが、
欠点についての意見はこれまで一切出なかった。
そこで侵攻作戦における欠点を反対する者に述べさせてみた。
また逆に防衛作戦の欠点についても反対する者に述べさせてみた。
それぞれの欠点を指摘しそれに対する対応策も講じさせてみる。
まあお互い欠点についての対応策は
お粗末としか言いようがないが、
ただ賛成・反対というだけでは議論にならないという事は
皆が理解してくれて良かったと思う。
反対するなら立案のどの部分が反対なのか、
何故反対するのか理由を明確にしなければならない。
「侵攻作戦には敵も多くの被害を与えることも出来ますが、
こちらも少なからず犠牲者を出すことになります。
味方の犠牲を最小限に食い止めるためにも防衛戦の方が有利です」
「確かに防衛戦より侵攻作戦の方がこちらの犠牲も出るでしょう。
しかしながら侵攻作戦を採れば
開戦の時期をこちらが選択でき不意を突くことも可能で
敵に大打撃を与え将来の安全の確保も可能となります」
「防衛戦における陣地の構築費用はバカに出来ません。
また多くの人員を割くことにもなりますが
敵国に攻め入る軍費と比べ軽微ものだと言っても
過言ではありません。
また陣地建設作業に動員する人数も
敵に攻め入る為の動員数と比較すると
微々たるものだと言えます」
「確かに軍事費用として侵攻には莫大な費用を要しますが
それは将来の安全への支払いと思えば決して高額だとは思えません。
また動員数についても侵攻を短期で終結させれば
問題は無くまた費用も抑えられます」
「短期間で終わらせることが出来ればそうかもしれませんが、
短期で終戦に持ち込める根拠があるのですか?」
やっと議論らしくなってきた。
そもそもここに居る皆はおバカさんではない。
おバカさんには出て行ってもらったのは秘密だが。
議論の方法というか仕様というかやり方というか・・
議論そのものを勘違いしていたようでもある。
議論=自己主張=相手を認めない、と思い込んでいた。
その様な状態で議論をさせた俺も悪い。
まあ今後良い議論が出来ればそれ良いかと思ったのは秘密だ。
思う存分、議論を尽くそう!!!!




