確認
精霊族の国王は辺境伯領に籠ったまま動かない。
国境である河川に橋を架けるつもりだ。
橋が完成する頃合いを見計らい一気に魔族領に攻め込むつもりかもしれないが
その様な子供騙しが通じる相手だとでも思っているのか?
魔族を舐めるのもいい加減にして欲しいと声を大にしたい。
ある程度出来上がったら破壊活動の開始だ。
破壊された橋の木材はリザードマンに頼みすべて回収させてもらおう。
何かしら利用価値があるように思える。
ハチに頼みハープンミサイルの用意をしてもらい、
攻撃の際にはリザードマンたちには橋の近くから退避してもらう。
攻撃の巻き添えを喰らったら一溜りも無い。
また敵が川に流されたら捕縛もしてもらう。
無理に捕まえる必要も無いが捕虜としてこれもまた利用価値がありそうだ。
精霊族の動きに注意を払いながら砦で待機していると
コルネ卿が俺を呼びにやって来た。
精霊族が面会を求めているらしい。
本来ならプトレ国王であるラゴスが会うべき相手の様だが
ラゴスが体よく俺に押し付けたようだ。
魔族の代表者に話があると相手は言う。
表向きに代表者はラゴス国王なのだが・・・
彼の面倒回避術は見事なもので見習わなければと思ったのは秘密だ。
精霊族の使者と国境砦で会う事になった。
どの様な惚けた人物がやって来るのか少し興味も沸いた。
人を待たせるだけ待たせておいて何と言い訳するのだろう。
その様な事を考えながら会ってみるとかなり若い少年が
使者として平然と会談の席の中心に座っている。
度胸が良いのか生まれが良いのか知らないが、
使者として敵地に訪れているのだ。
もう少し分を弁えた方が良いのではないのかと思ったのは秘密だ。
一緒に部屋に入ったコルネ卿と顔を見ると「やれやれ・・」という表情だ。
同様に一緒にいるブラウやディアナは一瞬、
怒りの感情を露にしたが直ぐに収めた。
「大使、席が違ってはいませんか?
そこは貴賓が着座される席ではありませんが」
コルネ卿が(そこ、おめえの席じゃねえんだよ、さっさとどきやがれ!)
という意味の言葉を優しく大使に投げかけた。
「こ、これは失礼しました。
わ、私は何処に席を取れば良いでしょうか?」
俺に聞くな・・と言いたいが言わない。
コルネ卿が彼の席を案内し俺も適当に座ろうとすると
ブラウが俺を諫め案内してくれた。
案内の際に(まだ席を覚えておいでではないのですか?)と小声で聞いて来た。
恐らくアストレアにチクるつもりだろう。
アザリアに戻るのが少し躊躇われる瞬間であったことは秘密だ。
「まあ席など何処でも良いでしょう。
話し合いが出来ることが一番肝心なのですから」
一応、アストレアの危険回避という意味で席に拘る方がおかしいのだと
前振りをこの場ですることにした。
失敗だった・・・思い切りブラウにディアナ、コルネ卿まで睨んできた。
「おお・・寛大なお言葉、痛み入ります。
席も弁えぬ無礼をお許し下さるとは、感謝いたします」
大使は何を勘違いしたのか感謝の意を表してくれた。
これには流石にブラウは文句が言えない。
ある意味助かったのは俺だ、感謝しようと思ったのは秘密だ。
「申し遅れました、私が今回の使者であり精霊族国王代理を務めます
シターケ・フォン・トランと申します」
「挨拶が遅れすみません、おれ・・じゃなかった私が
プトレ王ラゴス陛下の代理で魔族代表を務めますノーヴ・ロンヒルと申します」
「おお。貴方がロンヒル公でしたか、その節は祖父のマッシュールが
ご迷惑をお掛けし大変申し訳ございませんでした」
マッシュールと言うと・・誰だっけ?
物覚えは悪い方ではないが良い方でもない。
聞いたことがある名前なのは間違いないのだが今一つ思い出せない。
ブラウの方を見ると(ほら、あの、食料の件で・・)
ああ・・思い出した。
食料の提供を求めてきたあのオジサンだ。
オジサンと言っては失礼だ、精霊族の前国王だ。
今、確かに祖父と言ったがこの少年は彼の孫なのか?
「お祖父さんはお元気ですか?」
迷惑をかけたと言ってきたが、食料提供に関しては
何の礼も述べないつもりなのか?
少し皮肉を込めお祖父さんの事に言及してみた。
「それが、少し体調を壊したようでして臥せっております。
恐らく気の病ではないかとは思うのですか・・」
あれ? 以前アザリアで見かけた時には元気そうで
病などには無縁そうに思えたが
人は見かけに寄らないって事なのかもしれない。
相手から食料提供について何も言い出さないのでこちらから言い出した。
流石に「食料渡しただろう、感謝しろや!」とストレートに言わない。
食料を魔族側から提供したが十分足りたのか、
不足などしていないか尋ねると意外な答えが返ってきた。
「えっ? 何のことでしょうか・・・」
魔族側から食料の提供など受けていないと言う。
俺としてもこれには驚いた。
ブラウは精霊族に食料を提供している。
その様に聞いているが、彼女の方をみると彼女も驚きを隠せない。
「まさか、間違いなく精霊族に提供させて頂きました」
お互いに話がかみ合わない。
こちらは送ったが、相手は受け取っていないと言う。
誤配でもあったのか、確認を急ぎとることになった。
精霊族代表も何の話をしているんだと意味不明で困っている。
この代表が俺たちを騙そうとしている様にも思えない。
恐らく本当に受け取っていないのだろう。
物資の受け渡しは慎重に!!!!




