文句
獣人国・メネス帝国・精霊族への対処も終わり
これ以上の面倒事はお断りだと思いながら執務室から出ると
公庁内に甲高い声が響き渡った。
「何故、私はブラウお姉ちゃんと一緒に住めないのですか!
精霊族の姫とやらは一緒に住んでいると言うのに・・・
差別ですか! それとも天空族へ対する侮辱なのですか!!!!」
チビッ子天空族のクレーマーが・・いや、コンコルディアが騒いでいる。
「ちょっと、聞いているのですか!
答えなさいよ、説明しないよ、教えなさいよ、謝罪しなさいよ!」
執務室を出るのを待ち構えていたのだろう。
しかし、俺の側まではやって来ない。
近くに寄れないのだ。
彼女は側近のシッケーナさんに押え込まれている。
そうでなくても近寄れない。
「ちょっとでも近づいたらタダじゃ済みませんよ!」
「そうです、直ちにこの場から退去しなさい」
「文句があるなら、掛かって来い!」
「私たちを踏み越えて御覧なさい!」
「越えさませんけどね!」
ケイが率いる親衛隊が珍しく公庁内にいる。
彼女たちは俺が公都を散歩・・じゃなかった、
巡回するときのみ俺と一緒に散歩・・じゃなかった、同行する。
それなのに今日に限って公庁内にいるとは何という偶然か。
偶然に感謝だと思ったのは秘密だ。
偶然ではなかった。
コンコルディアは公庁内で騒ぎだしたわけではない。
公庁に入る以前から公都内ですでに騒いでいたのだ。
その騒ぎを聞きつけ慌てて親衛隊が駆け付けたのだった。
「あなた、いい加減にしないさいよね。
こんなチビッ子を盾にして恥ずかしくないの!!」
「チビッ子とは何て失礼なチビッ子でしょう」
「無礼です、ノーヴ様親衛隊に対して!」
「チビッ子って言う方がチビッ子なんです!」
「チビッ子天空族は、空に帰れ!!」
「なっ、なんと無礼で礼儀知らずで、破廉恥なチビッ子・・・
天空族族長代理の私に向かって!
もう勘弁なりません、空爆を開始しますよ!!」
この騒ぎを聞きつけブラウもやってきた。
「今のは聞き捨てなりません、コンコルディア様。
まさかとは思いますが、今日もパンツを着けてないのですか?」
「ぶ、ブラウお姉ちゃん・・今のはその言葉の綾といいますか・・」
「淑女としての嗜みをお忘れではないでしょうね。
下着は身に着けて当然です。
もしそうでない様なら、天空族の領地にお引き取り頂きますが」
ブラウが毅然とした態度でコンコルディアを窘める。
「旦那様、お騒がせして申し訳ございませんでした。
私がコンコルディア様に言って聞かせますので
どうかご処分だけはご勘弁願います」
いや、処分なんてするつもりないし、チビッ子親衛隊も俺の方から
言って聞かせるしそう大袈裟にしないでくれると有り難い。
「ケイちゃん、ケイちゃんも親衛隊の躾・・・じゃなかった
教育的指導をちゃんとしてね、公庁内では騒がない様にと」
「「「「は~い、ブラウ様、分かりました!!!」」」」
思った以上に親衛隊は教育されている。
きちっと揃って返答をして隊列を組んで外に出て行った。
コンコルディアは外交官宿舎の外れに位置する所に居を構えている。
と言うよりディアナがその様に取り計らった。
あまり公都内の住人の目に触れさせたくないという理由からそうなった。
彼らは下着を身に着ける習慣が無い。
下着というか厳密にはパンツを身に着けない。
彼らは上空で便意を感じたら地上に降りることなくその場で用を足す。
その際にパンツを脱いだりするのが面倒だと理由で身に着けない。
公都内でのノーパンは困る。
彼らは男女問わずミニスカだ。
厳密に言えばミニスカではないのだろうが
強風に煽られると丸見えになるくらいの短さだ。
まあ見えたとしても下着を着けているのならまだ良いかもしれない。
しかし、しかしだ・・・男女問わず丸見えはちょっと・・・
公序良俗に照らし合わせた結果、
アザリア領内で天空族はズボンかパンツを身に着けて外出するように決まった。
しかし天空族としては納得しない。
空で用を足さなければ問題ないのではとアザリアの決定に従わない。
確かにそれも大きな問題ではあるが、それ以上に丸見えは許しがたい。
そこで強権を発動し従わない者には処分を下すことにした。
この様な形で強権を発動させて良いものか大いなる疑問も残るが、
この際、臨時的措置として俺が判断した結果だ。
天空族以外と言うかコンコルディア以外、反対意見は出なかった。
「大公様の申し出、謹んでお受け致します」
シッケーナさんは快諾とは言えないまでも風紀面から了承してくれた。
彼自身、自分の一物を他人に見られるのを避けているように思える。
コンコルディアの言い分は
「天空族の風習を蔑ろにするな!」
「天空族を少数民族として見下している!」
「天空族をバカにするな!」
「天空族をアホの集団だと思ってるのだろう!」
「天空族のアソコを見れるのだから光栄に思え!」
「天空族は空を飛べて賢いんだぞ!」
「私なんか文字書けるし、計算出来ちゃうもんね!」
「どうだ、参ったか? 天空族に降伏しろ!」
最後の方は言っていることが支離滅裂だった。
「はい、そこ、奥様会議で了承を得たのだから文句言わない。
文句言いたいのなら文書でブラウに提出してね」
「ふん、言う事聞かないもん!」
コンコルディアに言わせれば、
アソコが丸見えになる事を知っておきながら見る方が悪い。
見ない様にするべきだ、それがマナーだと言う。
マナーに関してはお互い様だろうと言い聞かせるが、聞かない。
アザリアの住民が天空族の風習を理解し協力すべきだと言う。
抗議を長々と書面にしてブラウに提出して来た。
書いたのはシッケーナさんだ。
文末に「上記の内容は気になされる事無き様、シッケーナ」と記載があった。
後日、シッケーナさんと丸見え防止について話し合う機会があった。
どうやらコンコルディア自身もアソコを他者に見られたくはない様だ。
俺の感覚では当然の事だと思っていても他の者からすればそうで無い事も間々ある。
見られても平気だとばかり思っていたのだがどうやら彼女も見られたくないらしい。
羞恥心があってくれて良かったと思ったのは秘密だ。
しかし下着を身に着けることに反対した理由が分からなくなった。
下着姿すら見られるのを嫌うのが本来の感情ではないのか?
シッケーナさんと話すまで彼女は見せたがりの性癖でもあるのかと思っていた。
しかしそれは俺の思い違いだ。
彼女は何でも良かった。
天空族の威信を知らしめたかった。
何でも言う事を聞くと思ったら大間違いだぞと知らしめたかったのだ。
何でも言う事を聞かそうなどとは俺は思っていない。
ただ、アザリアにはアザリアの風習があり
それは尊重してもらわないとこの地に住む資格は無いと考えている。
その風習とは多種族の住むこのアザリアで新たに構成されていく
未来への扉の様なものだとも考えている。
古き良き風習は継承し、悪しき風習は絶たねばならないと考えている。
魔族、エルフ族、天空族、一部の獣人族の良き風習は取り入れるべきだ。
その為にも多種族への理解も必要になる。
また理解するための教養つまり教育が重要になってくる。
この教育は種族を問わず受けなければならない。
強制教育だ、義務教育以上の強制力を持たせる。
勉強なんかしたくない・・・とは言わせない。
また教育を受ける事の重要性も説いていく必要もある。
訳が分からず教育を受けさせられる程の苦痛は無い。
物心つく頃より教育の重要性を教える。
まず教育基本概念を幼少期から教え導くことこそ大人、つまり成人の務めだ。
何のための教育か? 誰の為の教育か?
幼子に自分の為に必要な事だと抽象的に教えても理解不能だろう。
具体的に分かり易く根拠を示し教え導かねばならない。
以上の様に教育のことになるとアストレアはよく熱弁を宣う。
教育を語らせたら五月蠅いと言う言葉が当てはまらないような状態になる。
これがバーサーカー状態なのかと思ったのは秘密だ。
発展のために教育に力を入れよう!!!




