日帰
アザリア公都脱出計画を練ってみた。
奥様たちは口には出さないが俺の一人歩きを感心していない。
外出時は常に誰かを連れて行くように言う。
その結果俺は一日中一人でいることは無い。
外出時は奥様の内の誰か一人が必ず側にいる。
主にケイがいるのだが例の幼女の世話をする時は
他の奥様のうち手の空いている者が俺を監視するような体制で側に控えている。
アイラだけは俺と腕を組み絶対に離さないという様な体勢だ。
悪い気はしないのだが、他者の刺すような視線が気にはなる。
一人で公都内を巡ろうとしたこともあるが公邸を抜けだした途端
センサーでも付いているのか思うくらい誰かに必ず見つかってしまう。
防犯機能が優れ過ぎているのかもしれないと思ったのは秘密だ。
公都脱出計画を綿密に練った結果だが・・・
脱出は誰にも見つからず可能だ。
所在も誰にも分からなければ一人旅は可能だ。
あとはどこに向かい旅をするかだけだが・・・あれ?
・・・無銭旅行って可能なのか?
・・・無銭飲食、無銭宿泊は?
・・・着替えとかどうする?
・・・その辺でストリップ?
公都より脱出する事ばかりに気が回って脱出後の事を疎かにしてしまった。
まず旅費をどう捻出すればよいか思案に苦しむ。
俺は文無しだ。
お金が必要な時にはアイラに言えばすぐに出してくれる。
「えっと・・公都を密かに脱出し独り旅をしたいのでお金下さい」
などとアイラに頼めるはずはない。
如何に旅費を確保するか・・妙案はない。
ここは一つ、苦しいときのハチ頼みだ。
流石だ、よく分かっていらっしゃる、先立つモノの確保完了!
旅費の当てが出来たので、いざ出発だが・・
奥様に黙って出かける罪悪感で圧し潰されそうになる。
初めは黙って出かける事に好奇心が芽生えワクワクしていたのだが
いざ出かけるとなると・・やはり気まずい。
後に残された者の事を考えると・・どうしても抜け出せない。
笑いたければ笑え! どうせ俺は小心者で臆病者だ・・
男一匹、女なんかに未練はねえ~・・とか言えない。
ああぁ・・・何と情けない・・いや?
黙って出かける方が薄情だよね?
仕方がない、ここは男らしく奥様たちに土下座して頼もう!
・・・あれ? 男らしいか? ・・・土下座は止めた。
根気よく奥様たちを説得することにした。
満場一致で独り旅に反対され説得は困難を極めた。
どう足掻いても無理だ。
この世界に来て以来気ままな旅などしたことは無い。
その様に思う事すらなかった。
気持ちに余裕が無かったのかもしれない。
その事も相まってか旅に出たいという思いは募るばかりだ。
そこで妥協難を模索することにした。
「独り旅がダメなら二人ではどうかな?」
「「「「「私がご一緒します!!!!」」」」
奥様たちは旅自体に反対していた訳ではない。
一人でプラプラ行く当てもなく旅行することに反対であって
要は一人ではなく所在を明確にしておけば反対はしないという事だ。
奥様のうち誰か一人が旅行に付いて来るとなればこれまた揉める。
奥様たちの自己主張合戦の開幕だ。
私が・・いえ私が・・いいえ私が・・
私じゃないと・・私で決まりです!
それぞれが意見と言える意見を言っている様な、そうで無い様な・・
主張のみを繰り返し他者のいう事等聞こうともしない。
傍から聞いているとワーワー、キャーキャー言っているだけに思えるのだが・・
皆で揃って旅行・・と言うわけにはいかない。
俺とは違いそれぞれ皆仕事を抱えているのだ。
それにみんなで旅行となると俺の旅行の趣旨に反する。
自分探しの旅ではないが、日常から少し離れてみたいという思いもあって
独り旅をしようと思っていた訳だし、みんなで揃ってとなると
日常の延長線になってしまう可能性がある。
奥様たちの剣幕がここまで凄い事になるとは思わなかった。
誰しも一歩も引く者かという思いも犇々(ひしひし)と伝わってくる。
「えっと・・順番で交代制にしない?」
この一言で奥様たちは冷静になりやっと話し合いらしい様相になった。
俺が奥様を連れ瞬間移動で旅先から戻り、そこで交代するという事で何とか丸く収まったが、何か日帰り旅行みたいだなと思えたのは気のせいだろうか。
奥様たちを納得?説得?させるためだ致し方無いだろう。
『とんだ旅行になりそうですね』
ハチの冷たい一言に少し気が滅入りそうになったのは秘密だ。
奥様たちが快く?了承してくれたのだ。
精々、旅行を楽しむことにしよう。
さて問題です・・どこに旅行に行けばいい!!!




