御触
メネス帝国皇帝の勅許はクーデターによる革命指示だ。
イトラ皇妃は俺の命を待つまでもなく交流都市に移って来ていた旧帝国軍5万
及び旧帝国近衛騎士団にも軍事招集令を出した。
また臨時近衛軍としてこれも旧帝都警備隊に招集をかけた。
総勢6万5千のアザリア旧メネス帝国軍によるメネス帝国占領軍が編成された。
イトラ皇妃はご丁寧にアグラットやアイラに声をかけ帝国に向かう準備を促した。
どれほど急いだのか分からない。
予め準備でもしていたのかと思うほどの勢いでアグラットとアイラがやって来た。
「ディアナやルーシャたちも騎士団を率い後程合流予定となっております。
さぁ、出陣致しましょう!!」
「お待ち、アイラ。
今回の総指揮はイトラが執るんだ。
彼女の進軍命令が下るまで出しゃばった真似はおよし」
「そうでございました、出過ぎた真似をお許しくださいませ。
今回の戦、私は旦那様の御傍をお守り申し上げる立場でございました。」
「そうさ、私はイトラの側にいるから、よろしく頼んだよ」
「はい、アグラットお姉さま、心得ました。
決して旦那様の側を離れませんのでご安心ください」
イトラ皇妃は俺の命令を待ち、アグラットとアイラは皇妃の命を待つ。
今作戦の総指揮はイトラが執るが、総責任者は俺だ。
アザリア公国がメネス帝国を滅ぼすという形をとる。
この事態を奥様たちは予測していたらしくいつ
帝国に攻め入っても良い様に準備は滞りなく終わっていた。
皇妃も奥様会議に参加し帝国に攻め入るために
旧帝国軍および近衛騎士団を掌握し準備万端の備えだった。
元の祖国に攻め入るのだ。
旧帝国兵士の心境や如何と思って心配もするのだが、
兵士たちの指揮は高く帝国に蔓延る賊を討伐すると意気込んでいる。
皇帝が恨まれているのか、高位貴族が恨まれているのか
判断は付き兼ねるが何れにせよ政治不信が招いた結果だと言えよう。
「えっと・・・話し合いとかする時間ある?
俺、戦争とか嫌なんだけど・・」
「何を今更、これは避けては通れない道でございます!」
「旦那様が人を傷つけるのが嫌なのはよく知ってるさね。
でもね~、それが判断を遅らせ民衆を苦難に落とし込む事態に繋がるんだ。
旦那様の気持ちは分かるけど、帝国の民衆の事も考えておくれよ。
イトラもメネス家のことより民を思っての判断なんだ。
国を刷新し民を救う、こんなこともあるってことをさ」
一刻も早く帝国に新政府を樹立させ帝国民を不安から救う。
言っていることは理解できるが、果たしてその様な手段が
最良だと言えるのか疑問だ。
確かに今の帝国はアザリアに対し軍事力は無いに等しい。
帝国軍の主力である正規兵は全てアザリアに吸収されたのだ。
アザリアの魔法騎士団が出張ることなく帝都は陥落するだろう。
果たして戦闘が起こりうるのかも疑問だ。
現在の帝国軍は辺境軍以外いない。
噂ではその辺境軍は魔族と共にクーデターに参加していると聞く。
アザリアの大軍の前ではその様な者たちも無力に等しいのかもしれない。
「旦那様、出陣のご命令を!」
イトラ皇妃も想像以上に昂っている。
興奮というより早く終わらせたいという雰囲気だ。
「イトラ皇妃、その・・旦那様って言うのはちょっと・・
皇帝に離婚を突き付けてないのだし、早い様な気が・・
って、早いよね、婚姻宣言してないし」
「気持ちの問題です、一向に構わないと存じます!」
ここで論議すべき問題ではない。
後程ゆっくり話し合おうと思ったのは秘密だ。
「それより一刻も早く帝国民を救わなければなりません。
いざ、ご命令を!」
帝国を攻め滅ぼすというシナリオが俺の知らない所で既に出来上がっていたようにも思える。
今更「戦争はしません、皆さん解散してください」と言える雰囲気でもない。
被害は最小限に止める様に言い渡し進軍を宣言した。
「被害を出さないに越したことはありません。
破壊活動を行う為に軍を動かしたわけではありませんから。
その点はどうかご安心を」
領民を救うための軍事侵攻であり、帝国を滅ぼすというのは手段であって目的ではない。
その点は皇妃も理解しているというより始めからそのつもりのようだ。
進軍の速度は遅い。
わざとゆっくり威風を示しながら進んでいる。
アザリアから帝都まで直線的に進まず意図的に回り道をして各村や街を経由している。
帝国領民にこれから起こることを知らしめるための行為のようだ。
「帝国領民よ、安心しなさい。
アザリアがこの地に安寧を齎します」
行く先々でお触れを出し領民に安全を保障し暗に新政府の樹立も宣伝している。
これまでの重圧から領民は解放されるのだと言わんばかりだ。
軍は迅速なるを以て良・・・まるで反対だが・・
大軍勢のピクニックかよと思ったのは秘密だ。
大の大人が挙ってピクニックって・・良いかも!!!




