民意
ノアルの帝国内における拉致事件に対しアザリアの領民も激怒した。
その結果、帝国に対し臨戦態勢に突入したのだが、
俺は開戦など一切望んではいない。
しかしアザリアの公国民の怒りは相当なものだ。
特に俺の家族が拉致されたので、
みんな自分の事の様に怒りだしてしまった。
アザリアの民だけではない。
交流都に住む人々も同様だ。
情けない・・恥ずかしい・・あってはならない事をしてしまった。
魔族とエルフの交流に水を差すどころではない。
絶縁になっても仕方がないようなことをした
帝国を許すなとみな怒っているようだ。
俺も同様な気持ちではある。
しかしここで怒りに身を任せ取り返しがつかない事態になったとしたら、
後悔することになる。
後悔だけで済めば良いがそれだけでは済まない事態に陥るだろう。
それが分かり切っているので俺自身軽挙を戒めようと自分に言い聞かせている。
ノアルの仇は打ちたいが帝国を滅亡へと導くことが仇討になるとは思えない。
ただ帝国をこのまま放置もしない。
度量が大きい者ならばノアルに怪我もなかったと言って
後の措置を皇帝に任せるかもしれない。
しかし俺は狭量だ、おまけに凡庸だ・・報いは必ず受けさせる。
そこで俺が取った措置は損害賠償請求だがそれだけでは飽き足らない
帝国貴族の特権の一時停止だ。
プトレとの戦争以降、貴族の財政立て直し策として
様々な特権が認められているがそれらを停止させしばらく様子を見る。
一部の貴族が行った犯罪行為を全帝国貴族に償ってもらう事にする。
魔族やダークエルフなどの下民扱いされている者に対し
謝罪の意を示してもらう事にした。
ここで俺には関係無いなどと無関心を決め込む貴族は信用できない。
状況次第では罪を犯した貴族と同じ行為に及ぶ危険性を持つと言っても過言ではない。
魔族や下民に対し憐れみを向ける様な貴族ならば
多少の不便を感じながらもこの要求に応じると思う。
上に立つ者は下にいる者に対し慈悲の心を持つべきだ。
下の者とは保護されるべき者なのだという認識の下に
貴族として君臨すべきだと俺は思っている。
貴族とは領民を大切にし、より良い生活を保障すべき存在である。
その様な者でこそ領民も支配階級である貴族に従うのだ。
領民を虐げる様な者は支配者たる貴族としての資格は無い。
また周りとの連携もうまく取れない自分本位な貴族も
支配者として君臨すべきではない。
その様な貴族も何かの際に必ず他者と
軋轢を生じさせ領民を苦境に追い込んでしまう。
その様な支配者は領民にとって不要な存在である。
貴族は支配者としての威厳を示すのみではなく
支配者として領民を慈しむものだ。
その様な矜持を示す者のみを支配者として
領民も安心して受け入れることができる。
その様事をしない、出来ないよう者を貴族としている皇帝も
皇帝としての責務を果たしていないと言わざるを得ない。
「みんな、聞いて欲しい。
今回の件に関し帝国に損害賠償及び帝国貴族への懲罰を要求する。
しかし賠償と懲罰の要求に関してこちらからは具体的な要求は出さない。
この要求に対し帝国がどのような賠償を行い、懲罰を与えるのか見定めよう。
帝国がどのような反省を示すのか知るためだ。
俺たちの納得のいく内容ならばそれで良いが、
そうで無ければ再度要求をしようと思う。
俺たちの納得のいくまで要求を続けようと思うがどうだろう?」
「大公様・・・生ぬるいですぞ・・戦の一字あるのみです!!
しっかりと懲らしめるべきです」
いや、バルバロスよ・・さっきの話聞いていたよね?
・・聞いてたけど意味が分からなかったの?
・・仕方がないね。
・・戦うこと以外知らない?
・・それ以外の生き方あったでしょ?
・・そうそう、平和な生き方の方が良いでしょ?
・・できるだけ平和的に解決しようね。
・・悪い奴は厳罰に処すからね!
・・死ぬより苦しい思いさせようね!
バルバロスも今回の件では怒り心頭だ。
領民の安寧な暮らしを守るため日夜警備に勤しむだけではなく
領民に対し他者に迷惑がかかることないよう様々な指導も行っている。
戦う事しか知らなかった者でさえ平和の維持を望み
与えられた権力を領民の為に有効に活用している。
俺の意見を述べ、みんなの反応を見る。
納得はしていない様な顔をしているが
俺が言うからなのか反対する者はいない。
俺の言い方が良くなかったのだろうか?
俺の意見を押し付けてしまったのだろうか?
もっと皆が発言し易い様にすべきだ・・失敗したか。
「ここに集まった皆さんは、領民の代表です。
アザリアの領民の立場で意見を出してください。
自分の役職なども踏まえられても結構です。
大公は皆さんの意見を聞きたいと言われてますが、
ここで言う皆さんとはアザリアの全領民も含まれていると思い下さい」
言葉に詰まって何も言い出せない者もいると思いブラウが皆に意見を求める。
「誤った、間違っていると思われる意見でも良いのです。
どうのように考え思っているのかその事を知りたいのです。
下手な意見を述べたからと言って罰せられることもありません。
大公は仰せになりました。
忌憚なく意見を述べよと」
ブラウを補足するようにメルテが発言を促す。
「えっと・・身分差をなくせとまで言いませんが
貴族だからといって、何でもやって良いと思わないようにして欲しいです」
「貴族なら、下の者を可愛がるくらいして欲しいです」
「貴族だからと言って何もしていないのに威張るのは良くないです」
・・・・・
・・・・・・
様々な意見が出始めたが、
基本的は身分や権限を悪用した横暴を許すなという。
「良くわかった、色々な意見を言ってくれてありがとう。
それらの意見を大切にするよ。
各代表者も今聞いた意見をよく噛締めて今後の活動に生かしてくれ。
俺もそうさせてもらうよ」
立場を用いた権力の乱用は許さないという事だが
元の世界でもその様な者もいたように思うのだが、この世界も同じだ。
皇帝よ、民衆の声を直に聴け!!!!




