甘味
会談も一時終了する形になってしまった。
アザリアとしての方針を打ち合わせるのに時間が必要という事になり、
後日改めて話し合いの場を設けることになった。
会議が終了すると即座に皇妃が皇帝を呼び留め、説教が開始された。
その隣ではブラウが国王を呼びつけこれまた説教だ。
ちび助もシッケーナさんにお説教を受けている。
この光景を見て俺は少し溜飲が下がる思いがした。
・・・ざまぁ~・・・と思ったのは秘密だ。
俺は洋々と会議室を後にし、予め用意されている個別の部屋で
寛ぐことにしたがそこで待ち受けていた者がいる。
・・・ハイ、御免なさい。
・・・言葉使いを勉強します。
・・・礼儀作法も覚えます。
・・・礼式に則った作法ですね。
・・・魔族式ですか?
・・・国際式ですね。
・・・そんなの知りません。
・・・ハイ、覚えます。
・・・えっと王族や皇族の作法?
・・・ナイフは右手でフォークは左手ってやつですか?
・・・ナプキンは使用したらダメ?
・・・水桶の利用の仕方?
・・・そんなのあった?
・・・見てませんでした、御免なさい。
・・・もうしません。
・・・許してください。
先生の御高説が俺の心を蝕む・・・辛いな・・・
一国の長は国の代表である。
その代表が粗野であるとその領民も同様に見られかねない。
領民に恥をかかせて良いものか。
領民に心苦しい思いをさせたいのか。
一国の元首たる自覚をもっとしっかり持つように厳しく説教も受けた。
馬の耳に念仏、馬耳東風、糠に釘、暖簾に腕押し、豆腐に鎹・・
勿体ないお言葉をありがとうございました。
まさか俺自身説教を受けることになろうとは・・
他者をあざ笑い・・違った、憐れんでいたら
明日は我が身という有難い言葉を思い出してしまったのは秘密だ。
礼儀を弁えた行動をとるべきなのだが、出来かねる。
礼儀正しくしようにも礼儀に疎いのが現状の俺だ。
その様な俺が他国と折衝しようなど
場合によっては他国と軋轢を大きくせることになり兼ねない。
なのでブラウに押し付け・・違った・・任せた。
俺がこの様な場に出ると碌な事にならない。
先生の有難いだろう御高説を大盛でご馳走になり満腹過ぎて疲れてしまった。
疲れを知らない肉体に疲れを感じさせるとは恐るべき先生の攻撃力だ。
やっとのこと解放され外に出ると・・何だか疲れ果てた数人の男性がいる。
皇帝・国王・補佐・・・
元の世界で終電で疲れ果てた人を良く見かけたが、
まさかこの世界でも見かけるとは思いもしなかった。
「いや~、結構お疲れの様ですね~・・・
皆さん大丈夫ですか~?
俺は・・疲れ・・ませんよ~」
少し見栄を張ってしまった。
こんなところで弱みを見せてなるものか。
補佐は兎も角、皇帝や国王から何を言われるか分かったものではない。
「ほ~ぉ、ノーヴ君は懲りていないのかい?
だったら、皇帝に頼んで妹さんにチクってもらおうかなぁ~・・」
「良いとも、しっかり伝えるとしよう。
アストレアにまだ懲りてないようだとな!」
「ロンヒル公はあの程度では効果が無いってことですか・・
いや~、恐れ入るが・・・
高説を聞き足りないとは!」
「ゴメンなさい、嘘です・・見栄張りました。
彼女の説教は反論の余地無しですから・・堪えます」
「説教する方も堪えますぞ、ロンヒル公
聞く耳を持たぬ相手など、特に疲れます」
アハハハハッ・・・・
大の大人が揃いも揃って苦笑いを浮かべる。
プレゼンを失敗し契約に辿り着けなかったサラリーマンの気分だ。
「次に生かそう!」って気になる筈もない・・コリゴリだ。
「どうです、甘いもので食べに行きませんか?
疲れた時には結構良いですよ。
俺、奢りますから・・・」
「ふんっ、奢って貰おうなど思っておらん。
しかし、甘いものか・・・・
良いだろう、行こう!」
「ほほ~ぉ、いいね~!
俺も奢って貰わなくても大丈夫だよ~」
「おお~、良いですな~・・
持ち合わせが乏しいので、馳走になります!」
おっさん連中と揃って甘味処に行くとか、この絵ずら・・ちとカオス?
護衛も無しに外へと行くこと自体問題有なのだが、アザリア州都、それも都庁だ。
俺の支配領域で問題起こせるものなら起こしてみろ。
気が付くと八方に護衛の影が・・・
魔女たちにケイ、大福たちもご苦労様です・・
あとで、甘いものをご馳走するからね。
俺や補佐は兎も角、皇帝に何かあればエルフとの摩擦を生じる可能性もある。
その配慮から護衛が付いたのだろう。
国王は少しくらい痛い目を見ても構わないだろう。
この兄ちゃん結構タフそうだしと思ったのは秘密だ。
国家元首が揃って甘味処に向かうなど平和な証拠かもしれない。
この様な平穏な日々が、ず~っと続いて欲しい。
平和が一番だ!!!




