愚行
糞ガキのエルフはその場に居た堪れなくなり帰ってしまったが
他のエルフたちは奴が帰ると素直に魔族のみんなにバカにしたことを謝罪した。
エルフたちに事情を聞いてみると奴は家柄を盾に
魔族を学校から排除するので協力するように強要したとのことだった。
この場にいるエルフたちは魔族に対し別段悪い印象は持っていなかった。
ただ、奴はこの都市から魔族を排除すべきだと
他の生徒たちに吹聴していたらしい。
魔族を追い出すと言うが何を企んで
そのような行動に出たのかまだわからない。
ただ単に魔族が嫌いなだけなのか、確認するのも必要だろう。
嫌いなだけならこの都市に来なければ良いのにと思う。
その辺りをハチが探ってくれているのだが、
ノアルの情報と合わせ考える必要はある。
先生が何か知っているかもしれないと思い尋ねるが
彼の件について話すことは無いと言う。
授業も終わり帰宅の際にノアルにこの都市の細かな情報収集を頼んだ。
この様な事もあろうかとノアルは配下をこの街に配置していたようだ。
明日までには細かな情報の収集が可能だと言うが、正直助かる。
面倒なことは早めに終わらせるに限る。
例の糞ガキは学校を休むかもしれないと思ったが、ちゃんと出席している。
流石高潔なハイエルフ様だ、あれだけの目に会いながらも
やるべきことはきっちりしている・・・根は真面目なのか・・
授業が終わり昼食の時間にヤツを呼び出し二人きりで話をすることにした。
呼び出しを断るのかもしれないと思ったが素直に応じた。
俺に逃げたと思われるのが癪だったらしい。
「一体、何の用だ?」
「何故、魔族をそこまで嫌ってるのかと思ってね。
異常過ぎやしないか?いくら嫌いでも。」
「別に魔族を嫌っている訳じゃねえ。
俺たちより劣っているくせに同じ立場でいるって奴が許せねえんだ。
「同じ立場って、今回は同じ教室ってことか?」
「そうだよ・・・やっぱ許せねえ・・・」
「お前侯爵家だったよな? 他の連中も同じなのか?」
「違がうが、それがどうした!」
「立場が違う奴らと同じ教室で授業を受けてるじゃねえか。
やっぱ、魔族だからって目で見てんだろ?
お前のそれ、偏見ってんだ、高潔な種族としてそれって許されるのか?」
糞ガキは返す言葉を失い暫く考え込む。
「お前の言う劣るって、持って生まれた能力の事を言うのか?
魔族だから劣ってるって決めつけちゃあ、痛い目みるぜ。」
「もう痛い目みてるっての・・・」
先日俺が一方的に痛めつけたばかりだ、
魔族だからって油断もあったのかもしれないが、
そうじゃなくても一方的だ。
「お前、何でも決めつけてかかるタイプだろ、
それじゃ痛い目しか見ないに決まってるぜ。
上に立つ者として下を見る目を養わなくてどうすんだ?
お前後継ぎじゃないのか?」
「・・・・親父の跡を継ぐつもりだ・・・」
「だったら尚更だ、下の者を排除するんじゃなくて
自分から進んで下の者の中に入って行くくらいじゃなくてどうする!
上から見下しているだけじゃ下は見えないぜ。」
「どうして下の者なんか見なくちゃいけねえんだよ!
下の者なんか見ても意味ねえっての!」
「お前・・・帝国、つまり皇帝を支えているのは誰だよ?
貴族だろうが、 その貴族を支えているのは誰だ?」
「・・・・平民だ・・・・お前が言いたいのは下の者が上を支えている。
その下をしっかり見ろってことか?」
「そうだよ、いいか、下がいるから上がいる。
お前らはその下の者に支えられているだけだってことを覚えとけ。」
「それとな、この交流都市をよ~く見てみろ。
これほど栄えた都市が帝国にあったか?
新しい文化が興ってるんだよ、この都市は!
エルフだけでこれだけの都市を作れるとしたら、
疾うの昔に出来てんだよ。
これが出来たのはエルフと魔族がお互い協力し合った結果だ。
魔族だけでも、エルフだけでも無理だ。
お前が劣っているって決めつけた者の力も入ってんだ。」
奴は全くのバカじゃない、話を聞こうと思えば聞けるし考えもする。
俺も話して無駄な奴なら話そうとは思わない。
「劣っているから、自分より下だからって見下して良いわけじゃねえんだ。
決めつけるなよ、今は劣ってばかりかもしれねえが将来は分からねえぞ。
俺もお前も将来、今のままって事もねえ、みんなそうなんだ。
成長するし、変化もする。
変わっていくんだよ、この交流都市みたいにな。」
この糞ガキは高いプライドが上に偏見でモノをみる。
この手の類は他者を愚弄し自分をより高い存在であることを誇示したがる。
まあ元の世界で言えばその類はカスに分類されるのかもしれない。
この様な者は普通に話をしようとしても聞く耳は持たない。
まずはプライドをズタズタにして
そして自己の能力が大したものではないと知らしめることも必要だと思い
痛い目に会わせ奴を貶めた。
その効果があったのか定かではないが、俺の話を一言一句逃さず聞こうとしてくれた。
初めから話を聞く姿勢で入れくれたら、
こんな面倒なことをしなくても済んだし
奴も痛い目や辱めを受けなくてもよかったのだ。
基本的に他者を見下すこと自体が間違いだ。
人にはそれぞれ異なった個性がある。
それを見ようともしない見識が浅いものが他者を見下し貶めようとする。
そのような事を行い愉悦に浸る、またそれを見て
楽しむ奴などは性根が腐っている。
その様な連中は性根が直らない限り
社会から排除され真っ当な人生を送ることは困難だと言えるだろう。
またその様な連中がいた場合、やはり対処すべきは大人だ。
周りの協力も必要になるとは思うが、大人であるのなら
そのような光景に出くわせば何らかの対処を行うべきだ。
アザリアでは子供たちの仲は良いいのだが、
これは親がほぼ付きっ切りで子の面倒を見ているせいなのかもしれない。
親が幼い頃より言って聞かせている効果ともいえるだろう。
親が子に対し責任を負い面倒を見ている結果、差別や偏見が無いと言える。
この交流都市でもそのようになって欲しい。
差別、偏見、他者を見下すなど言語道断である。
「なあ、糞魔族・・・ 俺は間違ってたのか?」
「ああ、そうだな・・・愚行だ。
もう一度よくこの都市の現状を理解しよく考えてみろ。
それに自分の立場者だ、お前は導く立場にいるってことを忘れんな。
いいか、お前は支配者じゃなく指導者であるべきだ。」
エルフはまた少し考えこむと「分かった」と言い残しこの場を後にした。
自分が行った行為に対し責任を感じたのかもしれない。
責任を感じてはいないのかもしれないが、
奴は自分が行った事が正しいのかそうで無いのか
視野を広げ考えてみるべきだろう。
自己の都合に合わせ人を排除するような行為は愚行と言わざるを得ない。
愚行を平然と行うものを愚者と呼ぶ。
誰しも愚者にはなりたくはないだろう。
・・・俺、愚者になりたくない!!!




