毒虫
二日後の朝、会議は再開した。
皇帝が引き連れて来た人数は50人と変わらないが、
半数以上がハイエルフの女性である。
なぜ女性を引き連れやって来たのか初めは意味が分からなかったが
皇帝の従者のうちの一人が自慢気に言い放った。
「如何ですか、帝国にも総督閣下の奥方に勝るとも劣らない女性は
帝国に掃いて捨てるほどおりますぞ。
総督の奥方は確かに美しいですが、
我が帝国ほど美しい女性の数おりますまい。」
何だ? 美人自慢でもしたいのか?
どうやら会議初日に俺が奥様方を率いてきたのがお気に召さなかったようだ。
まあ俺の奥様は美人揃いだし相手が羨むのも道理だ。
確かに重要な会議に女連れとはあまり褒められたことではない。
祝典の為に列席するのであるならば話は別だが、仕方がない。
俺には側近と呼べるような配下や同僚がいるわけでもなく
誰かを従えて会議に臨むとするならば奥様方以外いないのだ。
俺が美しい女性を従えて来たものだから、
負けてなるものかとエルフの女性を率いてきた。
確かにハイエルフだけあって魔族より美しく思えるが、
アイラほどの美人はいない。
しかし、これだけの美人を集めるのは難しいだろう。
ハイエルフは長身でやや細め、その佇まいといいドレス姿が様になっている。
普段から着こなしているのであろう、上品で可憐な出で立ちある。
「ほ~ぉ、これは美しい女性たちですね・・・」
思わず感想を述べ、しばしハイエルフの女性に見入ってしまったが・・
俺の仕草を見逃すような妻たちではない。
「ノーヴ様、少々席を離れることをお許しください。」
そう言い残し、妻たちが席を立った。
一瞬だけビクっとしたが、彼女たちは良い笑顔で退席したので
問題は無いはずだ・・たぶん。
相手の要望書に目を通すも、俺と同じで一昨日と変わらない。
アザリア自治州の立場を明確にすること
過剰戦力とも言える騎士団の解体
妻たちの解放・・・などなど。
俺の持つ軍事力とも言える女性たちを俺の元から解き放てと言う。
別に俺が彼女たちを拘束しているわけではないのだが、
傍から見ればそう見えるかもしれない。
何だか武装解除の要求の様に思えてくるが、
帝国側から見ての脅威を排除したいのだろう。
帝国としての気持ちは理解できる。
元の世界に例えるなら、近隣に世界を破滅へと導くだけの
戦力を保有する新興国が成立したとしよう。
その周辺国、いや世界の国々の反応や如何に、そのまま放置とはすまい。
強大な武力保持の理由を問い質し、
武装解除または戦力放棄を要求するに違いない。
皇帝はこう述べる。
「身近に我々をも殺すことが出来る毒虫がいたとしよう。
放置はすまい、誰もが排除するに決まっている。」
何もしなくてもその存在自体を嫌悪し排除する、当然かもしれない。
例えこちらが何もしなければ襲ってこないと分かっていても、
すぐ側にいると思うだけで安心はできない。
俺自身が百の言葉を尽くし説明をしても受け入れてはくれない。
信頼が無い者の言葉など国家元首が受け入れるはずものない。
逆に受け入れるとするならばその元首は相当なお人好しか大バカちゃんだ。
そんな国は他国に侵略され滅ぼされるか、
クーデターが起き政権はとっくに交代しているであろう。
この皇帝の要求は世界平和のためではなく自国の保身とも言うべき要求だ。
世界平和の為に動くのであれば、先に国際会議でも提唱し世論を
味方につけ交渉に臨むだろうが、いきなりの宣戦布告だ。
俺に対し恐怖と懐疑の念しか持ってないのがはっきりとって判る。
この様な人物に言葉を尽くすのは無意味かもしれない。
「お待たせいたしました、旦那様・・」
おっかなびっくり玉手箱って古い言葉を思い出してしまった。
「流石だ、アイラ、美しい・・いやドレスも素晴らしい。
よく似合っているよ、他の皆も大変綺麗だ、良く似合っている。」
エルフのドレス姿に触発されたのか、奥様連中がドレスに着替え再登場だ。
エルフの女性たちに決して負けていない。
それどころかネックレスを身に着つけているせいもあって、
胸元に思わず目が行ってしまう。
ダイヤが胸元を引き立て、胸をより美しく輝かせる。
素晴らしい、なんと美しいドレス姿だ。
・・あれ? 大福たちはドレスじゃないが・・超ミニスカだ!!
おお~・・例の侍女たちもミニスカだが・・・
あまり動かないようにね。
動き過ぎると見えちゃうから・・
そうそう、上手く手で押さえてね・・
露骨に押さえると変だから・・
そう、自然に手を添え何気なく振る舞う・・
よく分かっているじゃないか・・
アグラットの教育の賜物か・・・いいね~!
大福と侍女は何とも可愛らしい姿で微笑ましく見とれてしまう。
奥方たちを見たエルフの女性たちは目を見開き、息を呑み
慌てたようにアイラたちに駆け寄っていく。
アイラたちを取り囲む集団と大福たちを取り囲む二つの
集団に別れ何やら話し込んでいるようだ。
アイラたちを取り囲むエルフの女性たちの中から
一人が皇帝の所に駆け寄り何やら耳打ちをした。
「ノーヴ総督よ、今日の会議はこれまでにし、
次回の会議まで一週間の猶予が欲しいのだが、良いかな?」
何か策を思いついたのかもしれないが、今のままだと埒が明かない。
皇帝の申し入れを承諾し、次回の会議を一週間後とした。
女性たちは仲良さそうに話が弾んでいたようだが、
男性陣もあのように話し合いが出来ないものかと思い悩んでしまう。
自慢にならないが俺には話術など無い、話し合いには向かない男だ。
自己主張なら少しはできるが、相手の意見の正当性を認めてしまうと
何も話せなくなるような男だ。
・・・会議・・俺向いてねぇ~!!




