難癖
ケイを連れて森の中を散歩モードで歩いているが味気ない。
気分転換に見晴らしが良い場所を探そうとするが
森林の中なだけに景色が変わらない。
木々が生い茂っているだけだ。
植物の生態に興味がある人には良いかもしれないが
花なら兎も角俺には興味がない。
あっ・・・食べれる木なら興味湧くかも・・・
このままではケイが可哀そうだと思い、行きたい場所があるか尋ねてみた。
・・・無い・・・知らない・・・どこでもいい・・・
確かに俺もこの森について詳しくはないのだ。
ケイが詳しいはずもない・・・聞いた俺がバカだった。
そう思いながら歩いていると足元が悪くなってきたので
ケイの手を引いて歩くことにした。
ケイの手を取ると何故か腕を組んできて微笑みながら呟いた。
「この方が、安全です。」
ガッチリ腕を取られ抱き着かんばかりだ。
腕が解放されたかと思うと腰に手を回し、
俺にも同じようにして欲しいと強請ってきた。
普段大人しく口数も少ないケイが珍しいと思い
ケイのいう事を聞いて腰に手を回すと凄く喜んでくれた。
喜んでくれるのなら良いかと思い暫くこのままで歩いていたが・・・
妙にケイが軽い・・おかしい・・びっくり!!
ケイは歩いているのではなく浮いて移動していた。
俺でも浮くことはやったことが無い、試したことが無いのだ。
今度俺もやってみよう・・と思ったことは秘密だ。
暫くケイとの散歩を楽しんでいたが、国境の砦から連絡が入った。
帝国側の出入国管理官が本日到着して、俺に会いたいと言っているらしい。
ケイとノアルを連れて帝国の管理官に会いに行った。
ノアルを連れて行ったのはエルフについての知識を得るためだが、
聞かなければ良かったと後悔したくらいひどい貴族がいる。
民族至上主義を絵に描いた様な貴族だ。
エルフ以外の民族は無能で野蛮だと信じ、
エルフにより支配されるべき民族だと思い込んでいる貴族は少なくないらしい。
あの皇帝のことだからその様な人物に国境を任せるとは思いたくないが、
念のため心には止めておくことにした。
一応相手は貴族だ、なるべく礼を欠かないように
お辞儀くらいして挨拶することにした。
「初めまして、ノーヴ・ロンヒルです。
俺に会いたいと仰っている聞き、参上しました。
何か御用ですか?」
「お前がロンヒルか。
予はツマールゼ・フォン・トイレッター子爵である。
皇帝陛下より出入国の管理を仰せつかり罷り越した。
しかしノーヴよ、頭が高いぞ、跪け!」
跪けって・・・・こいつ、バカなのか?
「なぜ俺が臣下の礼を取らないといけないんですか?
俺は帝国の領民じゃないんですが、そこはご存じですよね?」
仲介役のマルカジーリさんやイキテールさんは少し慌てるが
ノアルが俺の裾を引き穏便に済ませるようにと合図を送るので、
無難に過ごすことにした。
「帝国の領民に貴様ごとき魔族がいようはずないではないか。
貴様ら魔族はエルフの奴隷程度しか利用価値はない。
つまり貴様は奴隷として礼を取る必要があるのだ。
分かったら早く跪け。」
「マルカジーリさんたちは跪いて挨拶させたんですか?」
「彼らは王国貴族ではないか、流石にその様な真似をさせる事はできん。
先の戦争でプトレ王国が負けていたなら話は別だがな。
口惜しいが、今は同盟国とし接するようにと
皇帝陛下から通達があったので対等に接したまでよ。
貴様は王国民でもなかろう、聞いておるぞ、独立君主らしいではないか。
そのような者は奴隷も同然、貴様は我々エルフのいう事に従っていれば良いのだ。
さあ、早く奴隷として振る舞え。」
「マルカジーリさん、俺帰ってもいい?
こいつと話ししていると腹立ってくるからさ・・・」
事なかれ主義なのか、この場を取り繕うため懸命になって
帝国貴族を宥めるもトイレッターはどうしても俺に膝を折らせたいらしい。
「貴様、どうしても跪かぬか、その意味を分かっているのか?
帝国の代表者である予を侮辱した、その意味だ。」
「分からんし、分かりたくないし、知りたくもない。」
「ふっ・・・首を洗って待っておれ。
貴様の自治領に対し宣戦布告の書を送り付けてやる。」
何か益々腹が立ってきた、折角平和になると思ったのだ。
それを一貴族が破壊しようとする。
しかし、身の程知らずとはよく言ったものだ。
身分が高くなるほど周りが見えなくなる。
俺も気を付けなければ、このバカ貴族のようには成りたくない。
「ハイハイ、分かりました。
でも勝手に宣戦布告などしても良いんですか?
皇帝陛下に叱られませんか?」
「予は皇帝陛下より全権を任されているのだ。
問題は無い・・しかし良いのだな?宣戦布告だぞ。
恐れを知らぬかのか・・身の程知らずめ。」
「あ~、身の程は弁えてますから、どうぞご存分に・・」
トイレッターは何か捨て台詞を吐いてこの地から去っていった。
慌てたのはマルカジーリさんたちだ。
トイレッターは俺が戦争中断に一役買ったのを知っている。
どうやら奴は俺に嫌がらせをしたかったようだ。
嫌がらせの度を越してしまったのかもしれないが、
言うに事欠いて戦争とは恐れ入った。
帝国は周辺諸国に難癖をつけ外交を拗らせ戦争を引き起こしてきたらしいが
その時の名残で今回のような事になってしまったのかもしれない。
マルカジーリさんたちには心配ご無用と言い残し俺も砦を後にした。
ノアルとケイは戦争と聞いて慌てるのかと思いきや、何食わぬ顔でいる。
前回の戦争で慣れたのか・・そうではないらしい。
例えどのような大軍が押し寄せたとしても一切問題は無いと信じているようだ。
思った以上に二人とも肝が据わっている。
・・頼もしいと思ったのは秘密だ!




