再生
どこからか声が聞こえてくる。
何を言っているかよく聞こえない。
はっきりとは分からないが、機械音みたいな声が頭の中に響く。
『・・目覚めて・・・れるはずです。マスター』
寝ていたのか俺は・・・どれくらい寝ていたのだろう。
ずいぶん長く寝ていたような気がする。
目を開けて周りを確認しようとするも思うようにいかない。
どうなってるんだ?
自分が今どうなっているのか、考えようとするもまともに考えることができない。
とりあえず落ち着こう。
一呼吸おいて・・・え?・・・呼吸ができない。
落ち着くどころか益々混乱する。
一体どうしたんだ。
『焦らず落ち着いて話を聞いてください。貴方は一度お亡くなりになっています。ですが意識の再生に成功しました。まだ意識のみの再生であり、肉体は完全ではありません。これより肉体の稼働確認にはいります。』
お亡くなりって・・死んだのか俺は・・・意識の再生って何のことだ?肉体の稼働確認って・・
訳が分からない、焦る一方だが色々思い出してみよう。
えっと・・・
確か仕事の定年を迎え、再雇用の打診も無く、無事に?職場をお払い箱になったんだよな。
そして帰宅途中スーパーに立ち寄って、定年まで頑張った自分へのご褒美ってことで、良い値段のする酒と少し贅沢な肴を買って自宅で独り寂しく祝杯?を挙げていたはずだ。
・・・その後・・・・・・・記憶がない!
『今はまだ身体を動かすことは不可能です。ですが安心してください。今はこの声に意識を集中してください。必ずや貴方様のご期待に応えてみせます。』
混乱するばかりでどうして良いか分からずにいると、また頭の中で声がする。
『調整が完了しました。一度深呼吸の後、ゆっくりと目を開き辺りが見えるか確認して下さい。又、左右の手足を思うように動かしてみてください。』
とりあえず声の指示に従ってみる。
一通り声の要求通りの動きができ、五感も問題無いようだ。
色々と声の要求に応えて行った後、辺りをよく見廻すと見たこともない部屋?だった。
壁も天井も真っ白な部屋だ。病院の個室位の広さなのだろか、まさに白の空間だ。
人の姿も気配も全くない。あるのは俺が寝ていた病院の診療寝台の様なものだけだ。
「ここは、どこだ?あんたは誰だ?」・・・・声が出ない。
『声帯に異常があるようですね。調整します。・・・・・・・如何ですか?』
「如何ですって、何がどうなって・・・・」
おっ、声が出せた。まだ動揺は収まらないでいるとまた声が。
『長い間お待たせしいて申し訳ありませんでした。貴方様のご希望通りの肉体を手に入れ意識移植に成功しました。今後、生前のご希望通りの人生を歩まれることでしょう。』
色々肉体について説明を受けたが理解し難い内容だった、と言うより理解不能だった。意識移植って何だ?今のこの体は、不老不死で最強の能力・肉体をもつらしい。
確かに生前、万能の能力を持つハイスペックの肉体だったら良いのに、って良く冗談めかしに思っていたけど。ついでに不老不死とか・・そんな事あり得ない、そんなの実際にいたら化物じゃないか。
そんなのには・・・・・なりたくないね・・・・・
けれど声によると、そのような肉体を得たと言っている。冗談だよな・・
確かに、この体は元の自分の体と比べかなり若返っているような気がするし、動きが軽い。
『まだ混乱されている様ですね。一先ず落ち着きましょう。落ち着かれてから、今後のことを相談してください。』
今後のことも何も、何がどうなっているのか、どうしてこの様な状況になっているのかを説明をしてもらわないと、相談どころでは無いんだけど・・・
と思ったら声がこの状況について説明を行い始めた。
どうやら、俺は深酒してそのまま寝てしまい、身体に異常が起きそのまま死んでしまったらしい。
そこで死ぬ間際に脳のデータをすべて抜き取って保存し、この肉体に移したってことだ・・
次に、肉体について簡単な説明を受けたところ、要は死亡確認のとれた若いハイスペックな肉体が手に入ったので、肉体の損傷個所を修復し、死んでいる脳細胞を復活させ、真新な脳に俺の意識を植え付けた。
因みに、この肉体本来の記憶等は完全に消え去っているってことだ。
死体の再利用かヨ、エコ過ぎるだろう。
生き返らせてもらってなんだが、キモイ。
何か昔見たホラー映画かアニメでその様なことがあったような・・・記憶違いか?って、この肉体ってどうやって手に入れたんだ?あと、損傷ってどうゆう事だよ・・・・なんかヤバいんじゃないか?
と、思っていたらまた説明が・・
何者かが森の中にこの肉体を運び込み、人目につかない場所に放置して去って行く処を偶然見ていたらしい。
そして放置された肉体を調べてみと、死亡しているが年齢も若く、身体能力も優れ、生前は健康状態も極めて良好であったことが分かったので、意識移動用の媒体として活用する為に肉体の損傷修復を行ったと。また種族的・個人能力的にスキル・ステータスもかなり優秀であることも分かったってことだ。
「要するに、超ハイスペック人間に生まれ変わったってとこか?」声の主に尋ねると、
『若干の祖語も見受けられますが、概ねそのような感じですね。』
何か曖昧なように感じる返事だった。