第42話 シンシアの内なる怒り
「シンシア、ラウラ、無事か?」
「……ええ、問題ありません」
「あたしも大丈夫~」
寒気のするような、熱に浮かされたような気分を覚えつつ、兎にも角にも修一は彼女たちの安否を確認した。
呼吸を整えながらシンシアは返答する。続けて、ラウラも。
「さて、こいつらは一体……いや、それよりも処遇をどうするかだな。縛り上げるにはロープの数が足りないし」
「なら、後であたしが他のロープとか縛れるようなもの探してくる。さっき見に行ってきた家屋のどっかに何かしらあるだろうし」
「そうだな。ならまずここで出来ることからやってしまおう。転がってる下っ端は……気絶してるか?」
地べたに倒れこんでいる男に慎重に近づき様子を窺う。鼻血を出して、口を大きく開いて白目を剥いている。動く気配はないが、油断は出来ない。無意識のうちに修一の肩には力が入っていた。
残り二人も見て回るが、三人の男たちの状態はだいたい似たようなものだった。
修一は地面に投げ出されていたナイフの回収をして、他の武器の可能性を考慮して簡単に男たちの身体検査をした。その時に鞘はついでに奪っておくことにした。
終了後、身の安全の確保のためとはいえ、慣れない行為をした修一は大きく息を吐きながら、緊張を解いてようやく肩の力を抜いた。
「とりあえずこいつらが持ってたロープ持ってきたよ~」
ロープの端を持って引きずる音を立てながらラウラが飛んできた。
「さ、修一よろしく。こいつはシンシアに襲いかかった下衆だから、ぐるぐる巻きにしよ!」
「ぐるぐる巻きったって……人を縛るとかやったことねーぞ」
「なら、私がお教えしましょうか?」
「え?」
いつの間にか修一の隣に澄ました顔でシンシアが立っていた。
「ロープワークには多少覚えがありますから。ぎちぎちに締め上げましょう」
『ぎちぎち』の部分を強調しながらにこやかに微笑む彼女の静かなる怒気を感じ取った修一は、顔を引き攣らせながら短く『頼む』とだけ言った。
「ここを、この輪っかに通して……あ、もっと力入れて固く結び目を作ってください。そうそう。あ、ちなみにこうするとまた別の縛り方に派生して……」
過剰とも思えるシンシアの丁寧すぎる説明に、修一は余計なことは考えないように考えないように、とただただ無心で手を動かした。
ラウラは何がそんなに彼女にとって面白いのか、けらけら笑いながら完全に見世物扱いの娯楽気分でいる。
彼女の指導の下、あっという間に地面に転がる哀れな人間が二体出来上がった。
かつて自身らの所持品であったはずのロープで逆に自分たちが縛り上げられることになるとは皮肉なことだった。
「なんだかんだでロープワークは覚えておいて損のない知識ですからね。私が昔、仕事を兼ねて旅をしていた話はしましたっけ? あの時も随分と役立ちました。他の結び方は、時間がある時を見計らってお教えしますね」
一仕事終えた満足感に浸りつつ、笑顔で振り返りながらシンシアが言う。
そんな彼女に対して、修一は『お、おう』としか言えなかった。
「それじゃ、他のロープ探しにいこ!」
楽しげに先頭に立とうとするラウラを、修一が引き留めた。
「いや、まだ拳銃を回収してない。おそらくあっちの方に飛んでいったと思うんだが……」
拳銃が飛んで行ったと思わしき方向、立ち並ぶ木々の方を見ながら修一は呟く。
「悪いがラウラ、ここに残ってちょっと捜索しててくれないか?」
「え~! そんなつまんないことしたくない!」
「つまんないって、あのなあ……もし万一、縛り上げてない方の男が目覚めて、先に拳銃を手に入れられてしまったら? 俺たちの命に関わるかもしれんだろ」
「う~ん『命に関わる』……もう、わかったってば。あ~あ。あたしも愉快なお仕置き模様を眺めてたいのに」
「さっきから、何がそんなに面白いんだ?」
「え? ん~、普段は芋虫を見下してるような人間が、今は自分が芋虫になって無様に転がってるその滑稽さに? 強者だと思ってた奴らが実はそうじゃないって気付く瞬間? 笑いを堪えられない」
「急にエグい表現するな。……とにかく頼んだぞ。俺らも直ぐに戻るから」
口を尖らせて渋々といった雰囲気を隠さないラウラを横目に、修一はシンシアと連れ立って歩き出す。
彼ら二人の背後で独り残されたラウラはムッとした表情をしていたが、急に何か妙案を思いついたのか謎めいた笑みを浮かべたのだった。




