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第41話 クソ野郎をぶちのめす



「男の方はいらんから殺せ。女は縛り上げろ。もし仮に長く楽しみたいならそれなりに扱え」


 迷彩男は修一とシンシアの二人から視線を逸らさずに、それまで何度も繰り返してきたかのような事務的口調で周りの人間に指示を飛ばしている。

 修一は唇を噛んだ。こいつらはクソだ。情けをかける必要なんてない。叩き潰して構わない。

 勘の域は出ないが、現状突破のための予想はついている。土煙を上げながら彼方に吹き飛んだあの男は地べたに転がったまま、動く気配がない。

 しかし。

 予想が外れていれば、修一は下手したら死ぬ。そうでなくても大怪我は免れないだろう。

 それでもこの外道にいいようにされるよりは遥かにマシに思えた。

 激情に駆られることは決して悪いことではない。冷静ささえ失わなければ。

 勝負に出るタイミングは十分に見極めてからにしなければ、と考える余裕を彼は持っていた。


「さて、俺としては正直女にも用はないんだ。だが、俺以外はそういうわけでもない。理解出来たら軽率な振る舞いは避けるんだな。お前らに出来るのは、万が一の可能性にでも賭けて天に祈ることだ」


 闘志を失っていない修一を警戒してか、迷彩男は言う。

 リーダー格のこの男はシンシアの命をこの場で奪うことすら躊躇していない。かといって大人しくしていようが無事に解放する気もさらさらないのだと暗に意味している。

 ますます修一の怒りの炎が燃え上がった。

 頭に血は昇っているが、周囲の状況把握を素早く行う。

 敵は残り四人。迷彩男と下っ端の男が三人。先程一人吹っ飛んで行ったので、おそらくは五人組。

 周囲は鬱蒼した木々が立ち並んでいる。隠れている可能性も捨てきれない。頭の隅に置いておかなければ。

 修一の目の前、一メートル強の位置に下っ端が一人。シンシアの前にも同じ様な位置に同じ様な男が一人。修一とシンシアの距離は五メートル程離れている。その間に割り込むように、修一の方を向いた状態で一人立っている。迷彩男がいるのは修一の右手前方、直線距離にして三メートル程だ。

 下っ端たち全員がナイフを握りしめている。銃があるかもしれないと思い腰回りを重点的に、慎重にそれとなく観察するも所持はしていなさそうだった。

 問題はリーダー格の男。長いマントが覆い隠して刃物以外の装備状況を窺い知ることが出来ない。

 じりじりと彼らに距離を詰められている。時間的猶予はあまりない。

 完全に手詰まりだといった雰囲気を醸し出しつつ、シンシアの方を向く。彼女の長い髪に隠れるようにラウラが潜んでいるのが視界に入った。

 シンシアの顔を見ると、彼女は微かに頷いた。 


 痺れを切らして下っ端の男の内の一人が襲いかかった。

 修一は腕を交差させ防御姿勢を取る。それと同時に、刃物の切っ先が自らに迫りくる光景を彼は瞬きせずに追っていた。

 今まさに届かんといった瞬間に、下っ端は見えない力に弾かれて木の幹に激突するとそのままずるずると座りこんで動かなくなった。

 彼は恐怖と安堵の感情が()い交ぜになったまま、内心は作戦の成功に脳がしびれていた。

 見込み通りになった喜びに浸る間もなく、シンシアの方を見る。彼女の目の前いた男の方は、ナイフを取り出したシンシアによって既に無力化されていた。

 修一は残る下っ端の男に突撃する。丸腰で無鉄砲に突進してくる彼目掛け、男は容赦なくナイフを振り下ろす。けれど修一は止まらない。


「おらあ!」


 危険を顧みずに叫びながら肩を突き出した修一にぶつかられた男は、物理法則を超えた軌跡を描いて吹き飛んで行った。

 残るは迷彩男だけだ。

 けれど迷彩男は、修一の懸念した通りに腰から拳銃を取り出していた。

 急いで走り寄るも間に合わない、と修一が覚悟した時。

 迷彩男の背後、後頭部目掛けて今まさに蹴りを入れようとするラウラの姿が見えた。

 迷彩男の後頭部に衝撃が走る。

 予想外の一撃に踏ん張ることすら叶わず、男は前のめりに倒れていく。


「シンシア! 奴に向かって手を伸ばせ!」


 シンシアを呼びながら、修一は男が持つ拳銃に触れるために右腕をめいいっぱい伸ばす。刹那、拳銃は男の手の中から弾け飛んで木々の向こうへと消えていった。

 そのまま勢いを利用して、修一は体当たりを仕掛ける。視界の端でシンシアの右手が男へ届きかけているのが見えた。

 重ねられた二つの見えない力が空気を震わせて迷彩男を襲う。

 投げ飛ばされた男は派手に回転して弧を描いた後に地面に叩きつけられたが、それでも勢いは止まらず何度かのバウンドを経てようやく静止した。

 息を切らしながらそれを見ていた修一は、奴らに同情はしないが、もしかしたらリーダー格の男の息の根は止めてしまったかもしれないなと思った。だが例えそうだったとしても、奴らがシンシアにやろうとしていたことを考えると、彼は後悔などしていなかった。



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