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第34話 予言



 物見櫓の梯子の側に立つナイトウの姿を視認した修一は、ようやく速度を落とした。

 両脚は情けなく震え、急激な運動量に耐えられなかった肺は引き攣り、修一はまさに息も絶え絶えといった様相だった。


「おう、悪かったな、修一。嬢ちゃんは目が覚めてるが、念の為に今も上で横になってる」


 ナイトウは片手を上げて挨拶するも、しかし声にはやりきれない思いが含まれていた。ナイトウは頭を下げる。


「どういった経緯であれ、無理させた。責任はこちらにある」

「…………っ!」


 未だ肩で息をしているような状態の修一は、上手く話すことが出来ない。

 もどかしさが募る。

 シンシアは覚醒したようだが、それでも姿をこの目で確認するまで安心は出来ない。

 怪物絡みの話をして以降、彼女の顔にはふと、影が出るようになった、と修一は思う。それは、今まで気付かなかっただけなのかも知れないし、修一がシンシアの姿を無意識に追うようになったからかもしれない。

 彼には責任があった。あの夜、わざとではなかったとはいえ、彼女を一方的に巻き込んでしまったという責任が。

 そして、あの一連の話を聞いて彼は気付いていた。シンシアは贄にはならなかった。だが、次はおそらく彼女の妹、アリシアの身が危ないのだと。

 彼女の千里眼ではどうやら、三日前の時点で約三週間の猶予はあるらしい。アリシアの姿も、人間のままの修一の姿もその時に確認が取れているからだ。

 ラウラと契約を交わしたあの河原でシンシアは自身の村までおおよそ二週間程かかると説明していた筈だ。

 余裕はないが、時間はまだ残されている。

 アリシアの身が危険に晒される前に辿り着き、取り敢えずあのいけ好かない召喚士の男をぶん殴る。

 個人的な恨みが多分に、もっと言うならば浜の真砂ほど含まれていたが、ともかく修一はそう決めていた。

 問題はシンシアの村が直面しているという怪物問題にどう対処すべきかということなのだが、これには修一も答えを出せていなかった。

 しかし、時間は刻一刻と過ぎていく。考えるだけならシンシアの村へと向かう道中、歩きながらでも出来る筈だ。

 一般にそれは問題の先送りということでもあったが、一概に粗をつつくわけにもいかないだろう。

 シンシアがアリシアを救いたいと願っているならば、彼女の為に、彼はそうするつもりだった。


 どちらにしろ今の修一に答えは出せない。

 彼女は無理をして倒れた。己に出来ることをする。現在明確に判明している事実はそれだけだ。

 ナイトウが差し出してくれたコップの水を二杯分飲み干して、ようやく修一は話せるようになった。


「……上に、上がって、シンシアと話してもいいでしょうか?」

「ああ、そうしてくれ」


 修一はゆっくりと、物見櫓の梯子を昇った。ラウラも彼が昇る速度に合わせて空を昇った。シンシアの様子も気がかりだっただろうが、それ以上に修一が梯子を踏み外したりしないだろうかと、心配してのことだった。

 慎重に顔を出した修一を、上半身を起こした恰好でシンシアは迎え入れた。その顔色は、普段の透明度を通り越してむしろ青白い。とても大丈夫とは言えない状態だった。


「申し訳ありません」


 開口一番、シンシアは彼に謝罪した。


「謝る必要なんてない。身体は大丈夫か?」

「ええ。大分良くなりましたから」


 修一は、当たり障りのない言葉しか掛けられない自身を歯がゆく思った。

 最大限の配慮をしてくれたのだろう、木の板の上には毛布が敷かれており、シンシアはそこに身体を横たえている。

 しかし、彼はより休息出来る環境に彼女を連れていきたいと思った。


「おぶっていくから、宿に戻ろう。その……嫌じゃなければ、だが」


 尻すぼみになっていく彼の言葉を、首を振って否定した彼女は『お願いします』と静かに答えた。

 横にあったロープを借り受けてシンシアと自分の身体をとしっかりと結びつけると、修一は梯子を降り始めた。

 浅く繰り返される息がかかるのを首元に感じながら、しかし意識しないように手元と足元のみに神経を集中させて一歩一歩、下っていく。

 側には、何か決心したような表情を浮かべたラウラ。

 下では万一の落下に備えて、気休め程度ではあろうが、ナイトウがスタンバイしている。

 彼らに見守られて、修一は無事に地上へと降りてきた。

 三人に、安堵の息が漏れた。

 そのまま宿へ向かおうとしたところを、シンシアが彼の襟を引っ張って引き留めた。


「伝えておかなければならないことがあります……」


 耳元で囁くように言ったシンシアのその後の言葉に、修一は思わず立ち尽くすことになった。


「明日の夜、怪物が来ます」




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