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第31話 怪物の正体・三

 


 ふむ、と、ナイトウは思案した。

 数秒の沈黙の後に修一の方に顔を向ける。


「俺は補足に回ろう。これはやはり、嬢ちゃんの役回りであるべきだ」

「…………」

「シンシア。頼む」


 修一から声を掛けられて顔を上げた彼女は、彼が予想もしていなかった行動に出た。

 フォークを手に取って唐揚げを次々に頬張り、そしてビールで流し込んでいく。

 修一とナイトウの二人は、普段の落ち着いた様子のシンシアからは考えられない行動に目を丸くするしかなかった。

 二人の男からの注目などいざ知らず、シンシアはジョッキの中身を空にすると、颯爽と立ち上がって店主にもう一杯頼んでいた。

 男たちは顔を見合わせる。が、お互いに言葉など出てくる筈もない。彼らは再びシンシアの方に釘付けになる。

 涼しい顔をして戻ってきたシンシアは、吹っ切れた表情を浮かべて修一に向き直った。


「お腹が空くと、ネガティブな考えばかりに支配されてしまいますから」


 それにしてもいい食べっぷり、それに飲みっぷりだったと修一はこっそり思った。

 目だけでナイトウの方を窺うと、彼もそう感じていたらしく修一と同じ様な何とも言えない顔をしていた。

 こほん、と咳払いを一つして、シンシアは居住まいを正す。 


「まずは『転移者が怪物と化す論理』ですね。正直申し上げて、何故転移者が怪物になるのか、理由は不明なんです。時間経過なのか、特定のトリガーがあるのか……。なので『そもそもどうやって転移者が怪物になると判明したのか、その経緯について』の方に移ります。端的に言えば私はこう、伝え聞いています。ある村で怪物を殺すことに成功し、死骸を解体したところ頸部にネックレスが食い込んでいた。それは先日召喚した転移者の女が身に着けていたものだった、と。ナイトウさんの方はどうですか?」

「だいたい似たようなもんだ。やがて各地で確認が取れていったんだろう、それに伴い怪物の正体は転移者なのではないかと認知されるようになっていった」

「だったら、転移者なんて喚ばない方がいいってなりますよね?」


 修一の疑問を受けて、シンシアが続きを語りだす。


「意地悪な質問ですが、修一はこう考えたことはありませんか? 『バレなきゃいい』って」

「……まあ、その、無いとは言えないな」


 過去のあれこれを思い出して修一は苦い顔になった。

 人間誰しも多かれ少なかれそういったことは思うものだ。


「隠れて召喚の儀とやらは行われていたってわけか。言い方は適切ではないが、不要な転移者は処分……と」

「おそらくそういう事の方が多かったでしょうね」

「と、なると、殺された転移者が怪物として生き返るってことはない?」

「…………。私は確かめたことはありません……。人の命を身勝手に奪うなんてこと、今となってはどこもしていない筈ですし……」


 シンシアが俯く。

 その姿を見てハッとした修一はすぐに自らの軽率な物言いを謝罪した。シンシアは『いいんです』とは答えたものの、傷ついた様子なのは隠しきれていなかった。

 気まずい空気になりかけた二人の間を取り持った後、頃合いを図ってナイトウが言い添える。


「おそらくその線はない。理由は後でわかる。それからさっきの話に付け加えるなら、転移者を犠牲にして新たに転移者を喚び出そうとしても何も起こらないことが証明されてる」

「あの、話が逸れるんですが、召喚の儀はいつ頃が始まりなんですか? 一体誰が始めたことなんですか?」


 修一が口を挟む。

 ナイトウはその質問に自身で答えることはせず、シンシアに目線で説明するよう求めた。


「……時期については相変わらず不明で。暴れまわる怪物に困り果てたある村に、ある日訪れた男が実は召喚士の始祖にあたる人物で、彼が村人に怪物に対抗する手段を授けたとか、なんとか」

「それは……怪しくないか? それともそんなもんなのか?」

「あまり疑問に思ったことはないです。そういうものとして、受け入れているというか」


 シンシアの回答に修一は、この世界で生まれて生きて来たならばそういうものなのかも知れないな、と思った。

 彼だって以前はそれこそ現代日本にて生活を送っていたわけだが、何故自分はこの時代の日本に生まれたのか、それは彼の母が彼をこの時代で産んだからとしか言いようがないのだが、そういったことを思春期の頃は考えたような気がするが、いつの間にかそれを必然として受け入れている自分がいた。

 それと同じ様なものなのだろう。


「しかし、外部から来た俺たちにとっちゃ気になるところだよな。ちなみにその最初の村は、どうやら今の城郭都市だ」

「え」


 驚き固まったまま、修一は言葉が続かない。

 脳内には次々に言葉が浮かんではぼやけて、また別の言葉にかき消されていくせいで、彼の口はまごつくだけで声帯は声として震えることに追いつけない。


「あそこは色々ときな臭い。秘匿事項が多すぎる」

「あの、ナイトウさんは城郭都市に行ったことがあるんですか?」

「ああ。不要の烙印を押されただいたいの転移者はあそこに送られる。そういや修一はある意味、幸運かもしれないな」


 ナイトウは自身の首輪をつつきながらぼやいた。

 修一は気にはなったが、おそらく良くない意味合いだと察して掛ける言葉が見つからなかった。

 何度目かの沈黙が流れる。

 修一は気まずいながら、片手を上げてそれを破った。


「あー。ちょっとここまでの話を整理させてください。まず『怪物が、いつどこで最初に現れたのか正確な話を』シンシアは知らない」


 静かに同意するシンシア。


「ナイトウさんも、ご存知ないんですよね?」

「ああ。知らんな」

「つまり取り合えずは、怪物はどこからともなく現れて、人々に猛威を振るった。増加する怪物の被害に抵抗する手段を得た人々だったが、それは矛盾を孕むものでもあった」

「そうです」

「しかし秘密裏に召喚の儀は行われ続けた。……かつては。今は、違う。怪物の原因をわざわざ喚び込むことになっても、そうしなければならない理由……もしくは、喚び出しても問題無い仕組みが構築された」


 段々とうわ言のようになって自身の考えを口にした修一に対し、シンシアは何度かその薄桃色の唇を開いて、そして閉じてを繰り返し、最終的には重い口を開いた。


「ええ。修一が言った、後者の指摘の通りです。その……」


 しかしそこまで発言して、彼女は言いにくそうに口腔内で言葉をまごつかせる。上目遣いで二人を見ては、目を伏せている。

 その態度を見た修一の目には、彼女が自分ではなくナイトウの、それも彼の首元を気にしていることは明らかだった。




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