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第29話 怪物の正体・一

 


全員が集合したのは午後五時過ぎのことだった。

 店内は昨日と同じような賑わいを見せており、修一たちも昨夜と同じように着席している。

 ただ昨夜と違うのが、全員がそれぞれ異なった緊張をその顔に浮かべていることだった。

 修一はこれから明かされる事実についての不安。

 シンシアは後ろめたい後悔。

 ナイトウは修一の反応についての憂慮。

 ラウラは修一の胸ポケットに窮屈そうながら収まっており表情を窺い知ることは出来ないが、修一の緊張が伝播しているようだった。

 目の前にはビールが用意されているが、誰も手を付けていない。希望したのは修一だが、彼にも特別深い理由があって注文したわけではない。ただ単に、どうしたらいいかわからなくなった時に適当に呷るためだけに過ぎなかった。


「……昨夜は、転移者を喚び出すのには犠牲を必要とし、また私たちは怪物に抗するに適した特殊能力持ちが現れるまで召喚の儀を重ねてきたことまでお話しました」


 一度深呼吸をした後にシンシアはそう切り出した。

 彼女以外の二人は静かに頷いて返事をする。


「この事実は、これからお話しするもう一つの事実――怪物の正体について判明した後、修一にとって不可解に映るでしょう」

「…………」

「修一、よろしいですか」

「ああ、話してくれ」


 修一は無意識のうちのビールジョッキを両手で包み込むように握りしめていた。


「怪物の正体は、転移者です」


 シンシアは一気に言い切った。

 修一は目を見開いた。汗が、首筋から吹き出すような感覚がした。シンシアの言葉を頭の中で何度も繰り返し、間違いなく『怪物の正体は転移者』だという言葉が発せられたのだと理解するに至った。

 ビールジョッキを握りしめた両手の爪先は力が入りすぎて白くなっていた。


「ちょっと待ってくれ。怪物の正体が転移者……って。俺が見たのもシンシアが見たって話してくれた怪物の姿も狼に近いものだったよな? 人間が、獣に変わるってのか? オオカミ人間みたいに?」

「その、修一……」

「俺もアレになるのか? 転移者の成れの果てがあの化物? いつ、何時俺はああなっちまうんだ?」


 波濤が押し寄せるように次々にぶつけられる修一の疑問符に圧倒されて、持ち上げた左手は宙で戸惑ったままシンシアは眉尻を下げることしか出来なかった。

 ナイトウは間に割って入ることはせず、腕を組んで悠然とした構えを崩さない。修一が思うがまま疑問を口に出し、やがてそれが尽きるのを待っているようだった。

 修一は脳内に浮かび上がってくる更なる言葉の断片を口にしようとして、しかしその時、胸ポケットから身じろぐ感触が伝わってきてふと目線をそちらに向けた。

 

 ラウラが泣きそうな顔をして修一を見上げていた。


「お前、なんでそんな顔してんだ」

「だって……」

「知らなかったんだろ。前にそう言ってたじゃねえか」

「だけど、でも。修一、ごめんなさい。本当にごめんなさい。」


 罪悪感から許しを乞うたラウラは、ついに大粒の涙を零し始めた。

 薄紅色の瞳から次々と生まれては滑り落ちるそれらは、ラウラの淡い光を放つ頬を伝い顎から滴って彼女のドレスへと染み込んでいった。妖精は泣き声は一切漏らさず、ただ涙のみを流していた。

 それを目にした修一は、突然ビールジョッキに口をつけて一気に半分飲み干すと、泡の付いた唇の端を拭ってからラウラを胸ポケットから静かに引っ張り出した。

 テーブルの上、ビールジョッキの影に入るように置かれた彼女はそのまま座りこんで手の腹で繰り返し目を擦っている。


「なんでだろうな。毒気を抜かれた感じだ。……なあ、シンシア。俺はいつ怪物になる?」

「少なくとも、三週間は問題ありません」

「疑うわけじゃないが……いや。これは疑ってる言い方だな。根拠は? 何故そう言い切れる?」

「私の異能力についての話をした時のことを、覚えてらっしゃいますか?」

「ああ。あの廃屋で」

「私の妹、アリシアの未来を視た時に、修一はその場にいました」

「その時の俺はつまり……人間だった。まだ」

「そうです」


 シンシアの断言を聞いても、修一の不安は拭いきれなかった。流石の彼も、シンシア相手に疑心暗鬼になっていたのだ。

 会話が途絶える。目線は自然とテーブルの上へと落ちていく。三つのジョッキ。泣いているラウラ。

 言葉を重ねても修一の疑念を払拭することは出来ないと感じていたシンシアはじっと口をつむぎ、修一はシンシアを信じたい気持ちと、自分があの成れの果てと化す恐怖との間で揺れていた。




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