第25話 酒場、午後七時
「修一。念の為訊くが、おめえさんは自分が何故、どうやって喚ばれたのか全部知ってるのか?」
「ああ、それはシンシアから聞きました」
「……はい」
修一から話を振られたシンシアは感情をその顔に取り戻し一瞬動揺を見せてから同意した。
その様子に、ナイトウは息を止めて顔を顰めた。
おもむろに腰のベルトに括りつけていた革製の子袋を取り外すと、紐を緩めてその中に鼻を突っ込んだ。そのまま数回大きく深呼吸している。
修一たちはナイトウの突然の行動に理解が追いつかず、顔を見合せた。何と声を掛ければ良いものか、全くわからなかった。
二人の耳には今まで気にならなかった周囲の喧噪がやたらと耳に入ってくる。席の間で注文が飛び交い、配膳する店主の声、陽気な会話……。
やがて袋の口を引き絞り腰に戻したナイトウは、先程とは打って変わって厳しい表情でシンシアに告げた。
「嬢ちゃん、嘘はいかんな」
「…………」
修一は何のことかさっぱり見当もつかず、シンシアとナイトウを交互に見ながら落ち着きなく座りなおした。
シンシアは俯いて膝の上で両手を固く握りしめている。けれど、ナイトウの言葉を否定することはなかった。
ナイトウは続ける。
「この世界がろくでもないものだって、修一に隠しておきたいからか?」
その言葉を受けて、シンシアはのろのろと顔を上げた。眉根を寄せ、目じりは少し赤くなっている。
アルコールのせいではないだろう、と修一は思った。しかし同時に、シンシアがまだ自分に対して隠しごとをしていたらしき事実に、少なからずショックを受けていた。
「嘘? シンシア……」
修一はシンシアを問いただすことも、ただ単に怒りをぶつけることも出来ずに彼女の名前を呼んで口を開けたままだった。
「ごめんなさい。ナイトウさんの言う通りです。言わなきゃいけないことだって、分かっていたけれど、ここまでずるずる来てしまいました」
シンシアの声は小さかったが、修一の耳には酒場の騒々しい雑音は耳に入っておらず、彼女の泣きそうな声がしっかりと届いていた。
ハッとした彼は両頬を叩いて、アルコールの多少回った頭を叩き起こした。
「悪い、ナイトウさんちょっと待ってくれ。俺にシンシアを責める意志はないし、ナイトウさんにも彼女を責めるようなことはして欲しくない」
これまでの道中でのシンシアの言動を思い出した彼は、きっと何か訳があるのだろうと、半分くらいはそうであって欲しいという願いが含まれていたが、そう思って彼女にたどたどしく声をかけた。
「たぶん、気を遣ってくれたんだろ? まだ会って三日くらい……短すぎると言えばそうかもしれない。だけど、それでもこれまで俺にしてくれたことを思い返せば、俺が納得できる何らかの理由で話せなかったんだって、そう思う。だけど、教えて欲しい。俺に関わることなら、俺は知っておきたいと思う」
修一はシンシアの萌黄色の瞳をしっかりと見据えて伝えた。
ナイトウは腕を組んで成り行きを見守っている。シンシアが自らの言葉で修一に応えるまで、彼は口を挟む気はなかった。
彼女の瞳は揺れている。
「わが身可愛さに、愚かにも隠し通せると思った私への罰です。私に、説明をさせてください」
やがてシンシアは、ゆっくりと瞳を閉じると、両手を組んで額にあてながら絞り出すような声で言った。
「私が修一に隠しておきたかったことは、二つです」
「転移者を喚び出すのには、生贄と引き換えであること」
「そして、怪物の正体です」




