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第23話 湯上りとランプ

 入浴を済ませ、修一は新しい服に袖を通した。綿素材の生成り色の襟付きシャツに濃いグレーのパンツ。

 それまで身に着けていたスーツは、処分するのも憚られてとりあえず新調した服が入っていた袋に詰め込んだ。

 受付付近まで戻ると、入場した時と同じ年配の女性が座っていた。窓口には『入浴料銅貨一枚』と書かれた木の板が掛けられている。貸出専用タオル込みの料金であったことに、修一はありがたく思った。

 ナイトウは宿泊先兼食事の手配をしてくると言って、修一より先に出ていった。公衆浴場入口までまた迎えに来るとのことだったので、彼はまずシンシアと合流すべく建物入口を目指していた。

 自身の予想通りに公衆浴場入口でシンシアらしき人影を見つけた修一は、ひとまず安心した。

 とりあえず彼女の元へ行こうと早足で近づいていくと、徐々に細部がはっきりとしてくるシンシアの姿に目を奪われて思わず立ち止まってしまった。


 以前の服装とはうって変わり、上半身が白のシャツからクルーネックのシフォンブラウスに変わっている。濃い目のベージュ一色で柄はないが、シンプルな生地だからこそ彼女の端正な顔立ちがよく引き立っているように思えた。

 彼女は目を伏せながらロング・カフスの釦を落ち着きなさそうに弄っていた。

 湯上りで上気した頬が、入口脇に掲げられたランプに照らされている。

 修一は自分の足が止まっていることにようやく気が付き、スーツの入った袋の口を固く縛りなおしてから彼女の元へ向かった。

 彼女は濡れた髪を纏め上げているため、透き通ったうなじの肌が露わになっている。後れ毛が彼女の首筋に微かな影を落としていた。

 修一は彼女の首元から目線を引き剝がすのに苦労した。

 ラウラの姿が見えないが、おそらくシンシアのポーチの中にでも隠れているのだろう。もしラウラにこの場を見られていたら軽蔑一杯の眼差しを向けられていたであろうことを想像して、修一はげんなりした。


「悪い。待たせてしまって」

「いいえ。合流出来て安心しました」

「その服、えっと、よく似合ってる」


 服装の件に触れないのも怪しいかと思ってさりげなく感想を伝えようとしたのだが、ありきたりな言葉しか発することが出来なかった。

 それでもシンシアは嬉しそうに微笑んで、ラウラがこっそり選んでくれた話をしてくれた。


「私は服を選ぶセンスがあまり無いので、助かりました。あまり着ない系統の服で、まだ気恥ずかしい気持ちがありますが」


 しかしその後、彼女は声を落として言った。


「衣服の調達が遅くなってしまってごめんなさい。でも、前の村と違って、随分と良心的なお値段だったのは幸いでした」

「いや、こちらこそ悪い。……頼りきりで」


 修一は後ろめたさを感じつつ、彼女に相談するにはこのタイミングしかないと思って重い口を開く。


「その、頼みがあるんだが」

「どうしました?」

「シンシアが帰路を急いでるのは重々承知してる。けど、路銀を作りたいんだ。何日かここに滞在することは出来ないだろうか?」


 もし、働き口があればの話だけど、と修一は付け足した。


「そうですね。……では、五日でどうです?」


 少し考え込む仕草を見せた後、彼女は修一の要望を受け入れた。

 彼は礼を言う。そして、浴場内でナイトウを交渉して今夜の宿と食事にありつけることになったことをシンシアに伝えた。

 彼女は目を丸くすると、すぐに感心した表情で修一のことを称えた。

 二人の話がひと段落した、丁度いい頃合いにナイトウが姿を表した。


「おう。待たせたな」

「いいえ。ここまでしてくださって、ありがとうございます」


 シンシアの感謝の言葉に対し、ナイトウは首をふりつつ答えた。


「その代わり、面白い話が聞けることを期待してるぜ。じゃあ、そろそろ行くぞ」


 ランプを掲げて先を照らすナイトウの後ろを修一たち二人はついて歩きだした。




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