第15話 入村拒否
日暮れ前に余裕をもって目指していた村に到着した修一とシンシアの二人だったが、予想していた通りの状況に直面していた。
案の定、門番から入村を断られたのであった。
しかし、予想外がひとつあった。
入村を拒否されたのは、修一だけだった。
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「この紙を握りしめろ」
二人の前に立ちふさがった大柄な体格をした門番の女は、無愛想に小さな紙片を突き出した。
ペアらしいもう一人の門番役の男は槍を携えており、黙って修一とシンシアの一挙手一投足を観察している。
修一は思うところありつつも、おとなしく指示に従って右手で紙片を包み込んだ後、掌を開いた。
しかし、紙が丸まって皺だらけになったこと以外、変化がない。
修一には何をさせられているのか、その意味を全くもって図りかねたが、何故か門番たちは明らかに動揺している。
門番ペアは顔を見合わせると、男の方が修一の手の中から紙片をひったくった。
女の方が懐から新しい紙片を取り出すと、今度はシンシアに向かって差し出す。
彼女も修一と同じようにするが、掌を開いた時の紙片の状態は違っていた。明らかに青く色が変化していた。
その結果を見た門番は、シンシアのみ監視付きでの入村を許可する旨を伝えたのだった。
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シンシアは門番に断りを入れると、修一を引っ張りその場を離れた。
「なあ、あの紙片は何だったんだ?」
引っ張られながら、彼はシンシアに問いかける。
「簡単に言えば、一般人でも使用可能な魔導具の類です。あれは、転移者と覚醒者のみに反応してその色を変えます。転移者であれば赤色。覚醒者であれば青となります。修一は、外見は明らかに転移者なのにも関わらず、色が変化しなかったため余計に警戒されたのでしょう」
二人は村を囲っている丸太が成す柵から離れ、五十メートル程東に離れた河川敷に移動した。
立ち止まったシンシアは振り返って修一の顔を見つめたまま、どう切り出すべきか迷っているように修一には見えた。気を使った彼は、彼女にひとつの提案をする。
「シンシアだけ村に入って、物品調達等を頼めないか?」
彼女は唇を噛んでいる。
シンシアも、本当はそうすべきだとわかっていた。
しかし、彼女には自分からそれを申し出る勇気がなかった。
それらに気が付いていた修一は、説得しようと言葉を続ける。
「二人揃って野宿する必要なんてない。安全が確保されているなら、迷うことないだろ」
「ですが、修一は野宿の経験があるのですか?」
「いや、ない。ないが、知識はある」
彼は電子書籍リーダーに手を当てて答えた。
それを返答を聞いてもなお、彼女は安易に首を縦に振ろうとしなかった。修一に画面を表示させると操作方法を尋ね、疑り深く記載されている内容を吟味し始めた。
完全に手持ち無沙汰となった修一は、河川敷を眺めて寝場所の”あたりをつける”ことにした。時々、シンシアが『んー』だったり、『確かにそう』だとか小さく呟く声が修一の耳に入ってきた。
彼は電池の消耗を避けたいのが本音だったのだが、シンシアは自身で隅々まで目を通すまで納得しなかった。
十五分後。
ようやくシンシアの同意を引き出すことに成功した修一は、シンシアと共に無愛想な門番の元へと戻ってきた。
男のほうは姿が見えない。門番の女に彼女が告げる。
「私だけでも構いませんので、入村を希望します」
「…………いいだろう」
門番の女は、修一の方を凝視したまま、たっぷりと時間を掛けてから答えた。
女が声を上げると、丸太の柵の扉部分となっている箇所が内側から押され、ゆっくりと内部の様子が顕わになり始めた。
「修一、食糧調達ほか、諸々したら届けに行きますから」
シンシアはそう言い残すと、門番の女に先導されて歩いていく。門番の男の方が外に出てきて、再び閉じるために門を押し始めた。
修一はリーダーで再び『初心者のためのサバイバル概論』と見出しのついた雑誌特集のページを表示した。
そしてそれを読みながら河川敷へと戻った。
「さて、やるか」
太陽もだいぶ傾き始めている。
修一が己に気合を叩きこむために声に出した時、その存在は唐突に現れた。




