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第12話 出発

 交換条件にお互い同意した修一とシンシアは、ダイニングテーブルを挟んで向き合ったまま、今後の予定を話し合った。


「まずは、そうですね。半日も歩けば、別の村があるはずです。まずはそこを目指しましょう」

「あんまりこんなこと言いたかないが、その、金目の物目当てに、家探しとか……しないのか?」

「もうほとんど盗り尽くされているでしょう。時間を掛ける意義はないかと」


 さらりと言ってのけたシンシアの言葉を、ついそのまま流してしまいそうになった修一は、焦って聞きなおした。


「盗り尽くされてるって、窃盗団みたいな存在がいるのか?」

「そりゃ、いますよ。……え? もしかして、修一の元居た世界にはいなかったんですか?」

「いや、いたけど。いたけど身近な存在じゃなかったって言うか、なんと言うか」


 『安全な世界だったんですね』と言うシンシアの言葉に、なんとなくフォローされているようなものを邪推していまい、修一は黙り込んだ。


「さて、そろそろ行動開始しましょう」


 神妙な顔つきになって椅子から立ち上がったシンシアに倣い、修一も後に続いた。



 建物から出た修一の眼前に広がっていたのは、朝日に浮かび上がった廃村のそれだった。

 百メートル程先には、かつて簡易的な壁の役割を果たしていたであろう、打ち据えられた板が一部残っていた。まばらに残る、板の残骸を追って目をやると、円形に村を取り囲んでいたことがわかる。

 その過程で、昨日の円陣も視界に入ってしまい、怪物の姿を改めて思い出してしまった修一は身震いした。

 村に現存する建物の多くは倒壊している。経年劣化によるものではなく、暴力的な力で抉り取られたような印象を修一は受けた。おそらく怪物の仕業なのだろう。

 周囲の様子を観察していた修一にシンシアが近づいてきた。


「修一、出発しましょう」

「いや、確か昨日、必要なものを入手してからって言ってなかったか?」

「ええ。ですが、見つかりませんでした。建物の崩落に巻き込まれて余計な怪我はしたくありません。怪物の存在も気がかりですし、もうここを発ちます」


 修一はシンシアに言われるままに、廃村から続く街道へと足を踏み入れた。

 去り際に一度振り返ったが、そこには破壊され、今後朽ちていくだけであろう僅かな建物と、廃材があるだけだった。




***




 出発から約二十分後。

 日頃の運動不足を修一が後悔し始めた頃。

 ふと目をやった木々の向こうに、灰色の残骸を見つけた彼はいきなり走り出した。


「修一!? 待って……!」


 シンシアの制止も聞かず、脛の高さまで生えている雑草を踏み分け、修一は進む。

 ほどなく彼の前に現れたのは、蔦草に覆われてはいるが、紛うことなき鉄筋コンクリートブロックの群れだった。


「なんで……」


 言葉を失う修一に追いついたシンシアは、微動だにしない修一の様子を背後から慎重に窺っている。修一に向かって何かを言いかけて、しかし寸前で止め、口を閉じて足元を見つめることを繰り返した。

 彼女を尻目に修一は、コンクリートの残骸まで足を進めると、それに触れた。

 雨風に晒されたからであろう、ざらざらと掌の皮膚に引っ掛かる感触。下に手を伸ばせば、根を張ろうとするツタの葉が彼の手をくすぐる。割れ目から覗く、曲がりくねった鉄筋。錆びた鉄の微かな匂い。

 動きを止めた修一に近づき、恐る恐る覗き込んだシンシアは、ややあって躊躇いがちに口を開いた。


「遺跡が、どうかしたのですか?」

「…………」


 修一は、返答を中々しなかった。シンシアの言葉が届いていなかったわけではない。むしろシンシアが、この鉄筋コンクリートの欠片を『遺跡』と呼んだことが信じられなかっただけだった。


「悪い、シンシア。まさか鉄筋コンクリートがあるとは思ってもみなくて……。それから、遺跡って言われてちょっと混乱したんだ。でも、寄り道してる場合じゃないよな。行こう」


 シンシアに向き直って早口で答えた彼は、元来た街道へと踵を返した。


「修一? 大丈夫ですか?」


 尚も心配そうに見つめるシンシアに向かって、修一は不自然に聞こえないように注意しながら『大丈夫』と答えた。

 そして、彼は自分が街道から外れて雑草生い茂る場所に、シンシアを結果的に連れ込んでしまったことに気が付いた。


「えーと、今更だけど、足元大丈夫か? 良ければ手を貸すけど」


 振り返った修一はシンシアに向かって右手を差し出した。


「…………!」


 シンシアは、慣れない場面に遭遇して固まってしまった。心なしか、耳の先が赤くなっている。男性からエスコートを受けた経験のない彼女は、どうするのが正解なのか咄嗟に判断することが出来なかった。数秒後、彼女の出した答えは。


「一人で歩けますから……!」

 

 彼女は修一を追い越すと、まだ生い茂っている雑草をものともせず、足早にひとり戻り始めた。

 修一は虚空を彷徨う右手を下ろし、馴れ馴れしい真似をしてしまったかと頬を掻きつつ少し反省しながら、彼女の背中を追いかけた。






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