こすもす
久しぶりにフィルムアルバムを開いて
スリーブシートをライトボックスに載せる
鮮やかな色の洪水 その内に
あの人の姿が有った
低倍率のルーペを載せて一コマずつ
これは都内の大きな公園の
こすもす畑の中にいるあの人を
写した写真
まだ秋に入りかけ 服の袖丈が少し伸び
猛暑を過ごし切ったことの安堵が
どこか見受けられるような
安らかな笑顔
倍率の高いルーペに切り替えて
あの人の表情を追ってみる
残念ながらピントが甘いのも
少なくないけれど
早咲きの黄色に近い色のこすもす
それに少しだけ混じる紫や紅色
通路にはみ出したそれらに顔を
寄せていたあの人
昭和の時代のこの花の名前の歌は
多分これよりもう少し遅い時期
あの歌に感じられる切なさはまだ
ここには見られない
スリーブシートのタイトル欄には
場所と日付と使ったレンズの名前
当時好んで使った135mmのレンズ
それがあの人との距離
短い焦点のレンズに比べて中望遠は
歪みが少なく自然に写るというけれど
それは距離が離れているということの
うらがえしに過ぎない
記された日付はもうはるか昔の事
シートアルバムをめくってみても
短い焦点のレンズで撮ったあの人が
現れてくることもなく
きっと今年もまたあの公園では
同じような花が同じように咲き
切り取られた時間と同じ景色が
見られたのだろう
ルーペの中の景色には切なさは
感じられないのに 何故だが
心のどこかがちくりと痛み
像がぼけてくる
そういえば、こすもすは出していなかったな、と思い。
時期外れなので、過去の思い出ということにしてみた。