92話 いつも通りの中の違和感
♦︎♦︎♦︎
御前試合の次の日、私は疲れてしまったのか、熱を出してしまった。
熱、と言っても微熱で、37.5度ほどだったのだけど、父と兄の説得で大事を取って休まされたのだ。
15分ごとに兄が様子を見にきて、何か欲しいものはないかを聞いてくるのは、最初は良かったのだけど、最後の方は少し鬱陶しかった。
しかし、その事を言ってしまうと兄が物凄く落ち込んでしまうので、兄には言わず、心の中だけで留めておこうと思う。
翌日には熱も下がり、学校に向かった。
「体調は大丈夫でしょうか?」
「ええ、問題ないわ。元々そんなに熱が上がっていたわけでもないし」
いつもならメイドは連れてこないのだが、今日は体調を途中で崩した時にすぐ帰ってこれるようにとエミリアを一緒に連れて行くよう、父に命令されたのだ。
兄は父に抵抗し、そんな事なら自分も一緒について行くと言っていたが、父に却下されていた。
朝の出来事を思い出し、ふふっと笑っていると、学園に到着する。
エミリアの手を借りて馬車を降りると、真っ先に私に駆け寄ってくれるのはフェリシアだ。
「ミア様、昨日はお休みになられていましたが、体調は大丈夫ですか?」
「ありがとう。少し疲れが出てしまっただけですから」
「そうですか…私はてっきり…」
「…てっきり?」
顔を俯け、何か言いたそうにしている。だが、どこかに視線を向けた瞬間、ビクッと体を震わせ、顔が恐怖に染まった様に見える。
一瞬後にはいつも通りのフェリシアに戻ったから、気のせいだったのかもしれない。
「い、いえ。昨日、御前試合でトラブルがあったと聞きましたから、巻き込まれてしまったのではと心配で…」
「私ではなく、騎士の方にトラブルがあったのよ」
「そうだったのですね。と、取り敢えず、クラスへ行きましょう。もうすぐ授業も始まってしまいますし」
いつもとは違う様子に違和感を覚えるが、踏み込んでしまうのもどうかと思い、何も聞かないでおく。
くるりとフェリシアに背を向け、エミリアの方に向き直る。
「じゃあ行ってくるね、エミリア」
「はい、今日1日は、学園の近くで待機するように言いつかっておりますので、少しでも体に違和感を覚えたらご連絡下さい」
「ええ、分かったわ。行きましょう、フェリシア」
フェリシアと1週間後に迫ったテストの話をしながら、教室へと向かう。
結局、その日は体調は崩れる事なく、全ての授業を終えることができた。
そうして1週間後には、2学期の学期末テストも終え、いつも通りの学校生活が続いたのだった。




