9話(side ノア)不思議な夕食会
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慶都から、ここは乙女ゲームの世界なんだ、と聞いた。納得できる部分も多かった。
この国の高位貴族の子息は皆、溺愛されて育っているから、地位が低かろうと、どうしてもこの子と結婚したい、と彼らが言えば、親は了承するだろう。
「じゃあ、俺は攻略対象なのか?」
軽い気持ちで聞いた質問だった。
だが、返ってきた答えは、俺は入学式の前日に殺されるという衝撃的なものだった。
なぜ殺されたのか、誰に殺されたのか、ゲーム内では明かされないらしい。
「大丈夫だ」
自分が好きな女が青白い顔をしているのに、虚勢を張らないわけがなかった。
♢♢♢
「マジで、お前って前世の記憶があったんだな」
ミアが出て行ったサロンでオリバーが話しかけてくる。
2人でいる時は、敬語はやめろと言っているため、タメ口だ。
「なんだ、信じてなかったのか?」
「いや、なんていうか、ミア嬢の話を聞いたら、急に現実感が出たっていうか」
「なんだそれ」
オリバーは俺が今、何を考えているか、とっくに分かっているだろう。その話をするためにワンクッション置いてくれているのだ。
「お前、2日後に死ぬってさ。どうするよ?」
やっと本題に切り込んでくる。だが、これに対する俺の答えは1つだ。
「どうするもこうするもないだろ。絶対に生き延びてやる」
「お前らしいな。けど、俺はその日はどうやってもお前の側にはいられないから、十分に気をつけろよ」
「ああ」
俺は拳を握りしめながら、サロンを後にした。
♢♢♢
明日が入学式の当日という日の晩餐。久しぶりに家族全員で食事を共にした。一体何年ぶりなのだろう。前に家族が揃った時など、もう覚えがない。
「明日は、ノアの入学式か」
父が口を開いた。俺に声を掛けているのか、それとも独り言か。
「はい、王族の名に恥じぬよう、精一杯務めてまいります」
とりあえず、当たり障りのないことを口にしておく。だが、父の表情は何一つ動かない。
俺は、未だにこの父が何を考えているのかはさっぱり分からないままだ。
誰も一言も話さないまま、食事は続く。
カチャカチャとフォークとナイフの音が、部屋に響いていた。
最後のデザートが運ばれてきた時だった。
「余が王位に就いて、今年で25年か」
再び、父が口を開く。今日は本当にどうしたのだろう。
「ヘンリー、どう思う?」
どう思うとは一体どういうことだろうか。この後、俺にも同じことを聞かれるのだろうか。
「これからも、父上の治世のご繁栄は確実だと」
答えになっているような、なっていないような答えを兄は口にした。
重々しく父は頷くと、俺の方に顔を向けた。やばい、これは俺にも聞かれるやつだ。
「では、ノアはどう思う?」
やはりきたか。マジでどう思うって何なの。何て答えてほしいの?
「もちろん、兄上と同じく、父上が治められる世は安寧だと、私も考えます。ただ、お体には十分、お気をつけていただきたく思います」
なんか、俺の方が答えになってないかも。まあ、いっか。
父上は「そうか」と言って立ち上がると、自分の寝室へ帰って行ってしまう。
本当に何が言いたかったのだろう…
モヤモヤしていたが、今はそんな事関係ない、と頭の隅に追いやった。