85話 御前試合
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文化祭が終わり、アルバートが母国へ帰った次の日。
私はハンナやアルバートと会えない寂しい気持ちを切り替え、学園に登校した。
「おはようございます。ミア様」
「あら、おはようございます。ディアナ様」
ディアナと校舎前でばったり会う。
今日はいつもより少し遅い時間だから、少しびっくり。
「アルバート様も、ハンナも自国に帰ってしまったから、少し寂しいわね」
「そんな悲しいお顔をなさらずに、だってもうすぐ…」
教室に着き、扉を開ける。
「おはようございます、ミア様、ディアナ様」
「お、来たな。ちょうどあんた達の兄さんの話をしてたんだよ」
教室でお喋りしていたのは、フェリシアとアイリーンだ。
フェリシアが声を弾ませて言った。
「今年の御前試合、クラーク様とイーサン様が出場なさるんですよね」
イーサンとはディアナの兄だ。
歳は確か、私達よりも6つ年上。イーサンが長男で、ディアナにはあと2人、兄がいるはずだ。ディアナが念願だった女の子らしい。
「そうですの。イーサン兄上は去年は準決勝敗退でしたから、今年は是非とも決勝戦で戦って頂きたいですわ」
いつもより感情が籠っている。普段から誇らしそうに兄の事を話すから、去年の大会は余程悔しかったのだろう。
「ミア様のお兄様は、確か最年少での出場でしたよね」
いつもならお兄さんの自慢が続くから、ディアナからの突然の質問に、少し驚きつつ答える。
「ええ、お兄様が誇らしいわ」
「やはり、ミア様もお兄様が決勝で戦っているところが見たいですか?」
「うーん。最善を尽くして下さったらそれで嬉しいけれど、欲を言うなら、お兄様が決勝まで残って下さったら良いなと思いますわ」
事実はどうなのか分からないが、兄は、総長と肩を並べるほどの実力らしいから、是非とも決勝戦まで残って欲しい。
「でも決勝戦ってのは、大体が総長と騎士1人の戦いじゃなかったか?残るにしてもディアナの兄かミアの兄のどっちかしか、決勝戦には残れないんじゃないのか?」
アイリーンの言っている事は本当だ。
御前試合では、何千人もいる騎士の中から30人が選抜され、戦う大会だ。
だが、それぞれの総長、騎士団長、副団長は絶対に出場するから、役職持ちで無い騎士のエントリー枠はたったの15人。
この枠をかけて、まず予選が行われる。
予選に参加できるのは、各騎士団長が選抜した己の騎士団に所属する腕の立つ者10人ずつ。全ての騎士団長が見ている中で、予選が行われる。
己の上司が見ている中、自分の所属する騎士団の名誉とプライドをかけて戦うらしい。
つまり、御前試合に出られるだけでも相当の実力者なのだ。
しかも毎年、準々決勝辺りから騎士団長vs騎士団長の戦いになってくるから、ディアナの兄が準決勝まで進んだというのは本当に凄い。
また、この10年、御前試合決勝戦は、近衛騎士団長vs騎士団総長だから、兄やイーサンが決勝戦まで残るのはほぼ不可能なのだ。
それを分かっていて、陰で護衛しているであろう者達(ディアナにも辺境伯がつけた護衛がいるらしい)にも聞こえるように、決勝に進んでほしいという私達は、少々意地悪かもしれない。
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