8話(side ノア)幼い記憶と、彼女との出会い
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俺はこの国の第2王子、ノア。幼い頃から、兄王子の補佐ができるように、色々な教育を施されてきた。
この国の王位継承権の順番は、王に一任される。
つまり、現王が、
「この子が次の王が良い」と言えば、例え何人兄がいようとも、王に決定するのだ。
だが、俺はずっと兄王子の補佐ができるように育てられてきた。どう足掻いても、この国の王にはなれないと、幼いながらに理解していた。
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父と母の仲はもうずっと前から冷え切っており、言葉を交わしている姿は見た事がない。
元から、父と母は他国との同盟強化のための結婚だった。
当時、両方の王家に女性がおらず、国王の姪にあたる、筆頭公爵家の長女だった母が、無理矢理この国に連れてこられた。
急遽決まった婚姻だったため、母は言葉も分からず、相当ないじめを受けたらしい。それでも、父は母を守ることはなかったらしい。
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こんな夫婦から生まれた俺達兄弟は、およそ愛というものを知らずに育った。
兄は次期国王というだけでずっと持て囃されてきたため、傲慢で癇癪持ちとなってしまった。
俺も、第2王子というだけで、兄ほどではないが、ずっと持ち上げられてきたため、幼少期は俺も横柄な性格だった。
そう、俺が記憶を取り戻さなければ…
俺が前世の記憶を取り戻したのは、10歳になる時。流行り病に罹り、生死の境目を彷徨ったのだ。
熱が引いたら、俺には前世があることを思い出していた。
何の因果なのか。俺に何をしろというのか。どうしたら良いか分からないまま、日々を過ごした。
当時、俺の唯一信頼できる友達、オリバーには、俺が思い出したことを全て話した。
最初は冗談だと思われていたようだが、俺の真剣な表情を見て、本当のことだろうと信じてくれた。
もう学園の入学式が目前まで控えていたある日。
庭を散策していると、兄とお茶会をする女が見えた。そうか、あれが兄の婚約者の…
兄は、女性の気持ちを慮って何かをすることはない。彼女の顔が死んでいることにも気がつかず、ペラペラと自分の自慢話をしていた。
ちゃんと人の顔を見て話せよ。見てみろよ、あの表情が全く動かないまま、「流石です」と言った彼女を。
その場を立ち去ろうとした時、彼女から衝撃の言葉が聞こえた。
「なんなの、気持ち悪い。ゲームでは爽やかイケメンだったじゃない」と。
小さい声だったからか、兄にその言葉は聞こえなかったようだが、俺にははっきり聞こえた。
この国に、ゲーム、イケメン、という言葉は存在しない。まさか、と思った。
その後、俺は兄との茶会が終わるまで、その女をずっと観察し続けた。
意識した仕草は、お淑やかな貴族の女性のそれだ。
だが、ふと無意識にする手の動きや顔の傾げ方は、俺のよく知る友人と同じものだった。
そう、友人。俺の思いは伝わらず、友人として、とても仲がよかった慶都。俺が見間違うわけがない。
お茶会が終わった後、気分が悪そうな彼女に、少し休んでいかないか、と声を掛けた。
もちろん、まだ王子としての態度を崩さぬまま。
サロンに入って確認してみるとやはり、兄の婚約者、ミア・トスルーズは、慶都の生まれ変わりだった。
なんでだよ。どうして兄の婚約者なんだ…
そう思わずにはいられなかった。