74話 美少女コンテストのコンセプト
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笑いながら話すノアに、私はキレた。
「いつもいつも楽観視しすぎよ、もうちょっと危機感を持たないと死ぬわよ」
とても怒っているのが伝わったのか、ノアは真面目な顔になった。
「死んでたまるかよ。…まだ好きな奴に告ってないのに」
「え、貴方、好きな子いたの!」
最後の方を私から顔を背けて、ちょっと顔を赤らめて言ったノア。
いつもとは違う言動に吃驚する。だが、それよりも私はノアに好きな子がいる事に驚いた。
全然そんな素振り見せないのに。
「え、誰なの。好きな人って」
少し前のめりになりながら聞いたが、ノアはまた不機嫌になってしまった。
「チッ、察しろよこの鈍感」
「今、なんか言った?」
「別に」
ボソボソと低い声で何かを呟いていたが、私には聞こえなかった。これは、私の悪口に違いない。
「というか、いつ襲われるか分からないまま、ずっと緊張感を保っている方がしんどいだろ?」
「それはそうだけど…」
今、明らかに話を逸らされた気がするが、一度逸らしたら絶対に私に話をしてくれない為、もう忘れることにする。
襲われるタイミングが分からず、気を緩めた瞬間に殺されては元も子もないではないか。
はあ、とため息をつく。私が彼に何と言おうと、自分で決めたことは決して曲げないのだ。
「貴方に相談する気が失せたわ」
「何だよ、相談って。言ってみろよ」
こちらの独り言は聞こえてしまったらしい。
言うまで解放してくれないタイプなので、素直に言う。
「文化祭で美少女コンテストがあるでしょう。この時の衣装とか、コンセプトをどうしようかと思って」
「そういえばお前って、人とは違う事をするのが好きだったよな」
うーん、と2人でしばらく悩んでいると、ノアから提案された。
「男装して、剣でも振ってみたらどうだ」
「男装?美少女コンテストなのに?」
「ヘンリーとソフィアが絡んでいるから、どうせ、優勝する気ないんだろ。なら、カッコいい女になったら良いんじゃないかと思って」
この国には女性騎士はほとんどいない。
貴族子女にとって、どれだけ良縁を掴めるかが、自身の幸せと思っている人が多いのが現実なのだ。
もし、貴族子女が騎士になってしまうと婚期が遅れ、良縁を掴む事が難しくなってしまう。
だから、この国では女性の中で剣を握ったことがある人はほとんどいないのだ。
けど、良いかもしれない、男装。
私はヘンリーと婚約破棄するつもりだし、男装をして何と言われようと関係ないのだ。
カッコいい女性になって皆を驚かせたい。
皆から敬遠される事を恐れていては、何も出来ないのだ。
「悪い、やっぱ忘れて」
私が何も言わないのを、私が嫌がったと捉えたようだ。
「私、するわ男装」
「え、嫌なら無理にやらなくても」
「私がしたいからするの。帰ったらお兄様やお父様に相談しなきゃ」
これした後はあれをして…と、頭の中でどんどん構想が出来上がっていく。
こんな私の様子を見たノアはフッと笑った。
「お前が気にいる案を出せて良かったよ」
「ありがとう、ノア。お陰で悩みが解決したわ」
「お、おう」
満面の笑みで言うと、ノアの顔が少し赤い気がする。
まあ、気のせいだろう。
「話は終わった。お前はすぐに帰って、忘れないうちに今言ってた事書くんだろ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
本当にありがとう、と言って私は駆け足で店を後にした。




